ダンクシュートに憧れて
中学生の頃の話だ。
僕たちはどうしてもダンクシュートがしたかった。
ダンクシュートとは下の挿絵のようにゴールを決めるバスケットボールの得点の取り方である。
あの超名作バスケ漫画全盛の時代なので無理もない。
ただどうやってもリングに届かない。
僕たちはどうすればいいかを考えた。
そこでクラスメートのイトゥーが名案を思い付く。
肩車をすればいいじゃないか。
なるほど、確かにそうだ。
僕たちは早速肩車をし、ダンクシュートを試みる。
ただ、いくら肩車をしても、3メートル以上あるリングにダンクシュートはできなかった。
当たり前だが、肩車をすると飛び跳ねることができないのだ。
いや、厳密にはできるのだが、怖くてやりたくないというのが正直なところだった。
しかし僕たちはがっかりすることはなかった。
ダンクシュートではなく、肩車が流行してしまったのだ。
壮絶!肩車のある風景!
僕たちは先生の目を盗んで、肩車をした。
先生が教材を取りに職員室に行っている際に肩車をした。
体育の授業中も、先生がほかの生徒を指導しているときに肩車をした。
クールに決めたいヤンキー君たちは僕たちの行動をバカにしながらも、「ちょっとやってみたい」という顔をしていた。
正直、良い子の皆さんは危ないので真似をしないでほしい。
僕らの愚行の最たるものは、休日に集まったときに、支えている人間が肩に乗っている人間にバナナを食べさせるというものであった。
これは思いのほか難しかった。
何しろ距離感がつかめない。
上の人間もかなり無理のある格好をしないといけない。
結果としてバナナが鼻に刺さり、キノピオのような人間が出来上がることが多かった。
難易度マックスの二人羽織だと思っていただければいい。
未来へダンクシュート!
僕たちは一通り肩車を楽しんで、ブームは下火になると思われた。
しかし肩車ブームの火付け役イトゥーがまたもここで妙案を思い付く。
肩車をすればあの映画館に入れるんじゃないか?
あの映画館とは町外れにあったいかがわしい映画館のことで、いやらしい作品を上映していると噂になっていた映画館だ。
「肩車をすれば僕たち中学生でも大人のように見えて、入場できるのでは?」とイトゥーは言い出したのだ。
僕たちはイトゥーに拍手をした。
ここに第二次肩車ブームが到来した。
そう、僕たちはいかがわしい映画館に入るという未来のために立ち上がったのだ。
まず僕たちが練習をしたのは、意外にも座ることであった。
いくら入場できたとしても、座席に座れなくては意味がない。
肩車をしながら座るということは想定している以上に難しかった。
しかし練習に練習を重ねて、肩に乗っている人間が支えている人間と動きを連動させることで揺れを最小限に抑えることに成功し、僕たちはその問題を解決した。
次なる問題は、2人の人間が肩車をしているということを隠すために、長いTシャツを用意することであった。
これは各自が家を探して、オバケのQ太郎のような服を探してくることで解決を図ろうとした。
支える方は上半身裸、乗る方は超ロングTシャツを着て、短パンを履くという計画だ。
ただ、それが誤算だった。
支える方は前が見えない。
やむを得ず少しだけTシャツに穴を開ける。
これでばっちりだ。
僕たちは思った。
しかし2メートル20センチを超えるという大男がそこにいた。
スタイルが良いと言えばその通りだが、身長220センチ以上に対して、足が70センチちょっとくらいしかない仕上がりだ。
流石にバレるほど胴が長い。
何よりもTシャツが支える方の胸辺りまでの長さしかなく、お腹が見えている。
イトゥーはわなわなと震えていた。
自分の計画が失敗に終わることを理解したのだ。
そして彼は僕たちに作戦の中止を宣言した。
僕たちは涙を流しながら、イトゥーと悔しがった。
僕たちの未来に向けてのダンクシュートは数センチだけリングに届かなかった。
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