ユータの初恋
いつだったかユータのことを書いた。
ユータとは友達の友達という関係で、そこまで親しくはなかったが、人懐っこく、純情でいいヤツだった。
高校を卒業してから、バイト先で初めての彼女ができた。
彼女だと解りにくいので、この女性を仮にカフェさんということにしておこう。
これはコンプライアンスに配慮してのものだ。
ユータはカフェさんのことを「年上だろうな」とは思っていたらしいが、好きになった気持ちは止められなかった。
カフェさんはユータの気持ちを受け止めた。
1月半ばから付き合い始めた2人にとっては節分が最初のイベントだった。
ユータが鬼の役をやり、カフェさんが豆を投げたらしい。
そしてそのあとで、歳の数だけ豆を食べる。
本来は数え歳の数だけ食べるものらしいが、ユータは実年齢の数だけ食べた。
すなわち彼はそのとき19粒食べたのだ。
カフェさんも楽しそうに豆を食べる。
17粒、18粒、19粒。
彼女もユータも微笑んでいる。
28粒、29粒、30粒。
このあたりからユータがたじろぎ出す。
35粒、36粒、37粒。
彼女が豆を食べ終わる頃には、ユータは完全に引きつっていた。
いや、18歳年上かーい!
それでもカフェさんはユータにとって初めてできた彼女であり、何よりもチャーミングであったため、ユータの気持ちは高まる一方だった。
そう、純愛の前には年の差なんて大した問題ではないのだ。
ユータの飛翔
あるとき、僕が友人の家に行き、桃太郎電鉄というゲームをして遊んでいると、思い詰めた感じでユータがやってきた。
彼女にプロポーズをして、誓いのキスをしたいとのことだった。
ユータ、君は今どき珍しいほど純情なヤツだ。
ユータは「何か気をつけることはないか?」と聞いてきたので、僕は「右利きならば女性の右側に座れ」とアドバイスをした。
右利きの人が女性の左側に座ると、女性を抱きしめる際に利き腕を使えない。
そのように説明をすると、ユータは痛く感動し、僕を師匠と言い出した。
「師匠、必ずプロポーズを成功させてきますね!」とユータは言って、友人の家を出ていった。
それから
数日して、僕は友人と喫茶店にいた。
ユータも一緒だ。
ユータはプロポーズに成功した。
しかし誓いのキスをしたあとで、カフェさんから「何か違う」と言われて、別れることになったらしい。
僕と友人は「そうか...」と言って珈琲を飲んだ。
きっとカフェさんは年齢のことを気にして、ユータを傷つけないように別れを切り出したんだと僕たちは思った。
自分より18歳も年下のユータには未来がある。
自分と結婚することでユータの可能性を狭めたくないと思ったのだろう。
僕はカフェさんの気持ちを考えると胸が苦しくなった。
そしてそのカフェさんの気持ちに気づかないユータに苛立ちを感じていた。
そこにお店の人がユータの注文したスパゲッティを持ってきた。
ユータはカフェさんに対しての不満を言いながら、スパゲッティを食べる。
ズチュ...ズズズチュ...ズチュチュ...
吸い方が気持ち悪い。
カフェさん、どうやらあなたは本当に「何か違う」と持ったようですね。
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maruneko-cannot-sleep.hatenablog.jp