まる猫の今夜も眠れない

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【完全実話】家の前に落ちていたもの

玄関を開けるとそこには

大学生の頃の話だ。

僕は大学の講義に出るために身支度をしていた。

下宿から地下鉄までは10分程度。

地下鉄から大学までの乗車時間も10分程度だった。

講義までは50分あるから、余裕で間に合う算段だ。

大学生協で珈琲くらいは買えるかもしれない。

僕は玄関を開けて、人1人通れるだけの細い路地を抜けた。

僕は隠れ家みたいな場所にあるそのアパートを気に入っていた。

そしてその細い路地が通りに接する場所にそれは落ちていた。

いらすとや (www.irasutoya.com)

僕は思わず後退りする。

「人が埋まっている」と思ったからだ。

しかし地面はアスファルトが敷かれていて、人が埋まることはできない。

そしてゆっくりと理解する。

これはカツラだ。

男性用のカツラが僕の家の前に落ちている。

少し茶髪がかっていて、お洒落用につけるヤツだ。

初めて見た。

そもそもカツラとはこんな風に取れるものなのか?

そしてカツラを付けていた人は、それが取れたことに気付かないほどの自然な仕上がりなのか?

いらすとや (www.irasutoya.com)

僕はこのお洒落カツラの持ち主に思いを馳せた。

このカツラの持ち主を仮にピッツアさんということにしておこう。

これはコンプライアンスに配慮してのものだ。

ピッツアさんはいつもと同じように会社に出社したはずだ。

多分茶髪のあれを付けているわけだから、お洒落に気を遣っている人なんだろう。

それなのに、ほかの社員からは勇気あるカミングアウトをしたと思われているのだ。

薄々知っていた同僚からは「やっと本当のお前を見せてくれたか」などと言われているかもしれない。

ちなみにこの薄々はそういうことではない。

ピッツアさんが意図せぬモデルチェンジに気づいたときのことを考えると不憫でならない。

ああ、ピッツアさん、ご自身が軽量化したときにどうして気付かなかったのか。

僕は地面に落ちているカツラの前で、胸が締め付けられる気持ちになった。

せめて、ピッツアさんがこのあと幸せになれるように行動すべきだと僕は思った。

「交番に届けるか?」

僕は最初、それが1番いいと考えた。

しかし冷静に考えると、カツラを落として交番に聞きに行く人はいないような気がした。

そもそもピッツアさんが交番で何と言ったらいいか困るだろう。

全くピッツアさんに対して優しさがない判断ではないか。

となると最善策は、ピッツアさんのお洒落カツラを雨風の当たらない通りの隅に置いておくことだろう。

僕はお洒落カツラを道の隅のヒサシがある場所にそっとおいて、大学へと急いだ。

僕が家に帰る頃には、ピッツアさんのお洒落カツラはなくなっていた。

 

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