真夏の夜のジョギングで思い出すのは
真昼に公園周りをジョギングするのが1番の楽しみだ。
走り終わった後に、氷でキンキンに冷やしたミネラル・ウォーターを飲むのが至福のひとときである。
しかし夏場はそうもいかない。
シンプルに熱中症の危険がある。
なので、暑い日は夜にジョギングをするようことがある。
真っ暗闇の公園周りは、どことなく気味が悪い。
生温かい風が首を撫でる。
物音に反応して、後ろを振り返ることが幾度なくある。
こんな夜はあの日のことを思い出す。
小学生の友達が消えた日のことだ。
ボンちゃん
ボンちゃんはクラスメイトだった。
最初に言っておかないといけないのは、ボンちゃんの「ボン」は関西弁の「ボンボン」の「ボン」ではないということだ。
そんな可愛いものではない。
ボンちゃんの「ボン」はお中元で送られるあのボンレスハムに由来していた。
ボンレスハムのような生き方をしているからという理由だったと思う。
小学生の付けたあだ名ということを差し引いても、発想が理解を超えている。
フランツ・カフカですら、この発想はもてないであろう。
僕や僕の友人たちはボンちゃんとは正直仲良くはなかった。
彼は常に子分を従えていて、横柄な感じがしていた。
その組織はボンちゃん軍団と呼ばれていた。
ボンちゃんはいわゆるガキ大将というのとは少し違った。
彼にはシャープさがなく、モッサリしすぎていた。
そしてボンちゃんはヘアスタイルに異常なこだわりがあって、常にバッハのような髪型をしていた。
そして哀しいことに、軍団員もボンちゃんを苦手としていた。
あれは本当に切ない事実である。
僕たちの小学校は授業がないときは校庭が開放されていたので、ありがたくそこで遊ばせていただくことが多かった。
そこへボンちゃん軍団が現れた。
ボンちゃんは僕たちに近寄ってきて、こう言った。
「俺はかくれんぼの天才だ、お前らごときに見つけられるはずがない。」
なかなかここまで知性を感じさせない台詞を言うことはできない。
しかも僕たちはそのとき野球をしていたのだ。
ボンちゃんの台詞には文脈がないのである。
しかし僕たちも小学生であり、かくれんぼの勝負を挑まれたなら、ひく訳にはいかなかった。
かくして僕たちとボンちゃん軍団のかくれんぼ対決が始まった。
しかしこのかくれんぼであのような悲劇が起きてしまうことを、このときは誰も予想していなかった。
後編へ続く
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