ボーカルグループの結成
今までに就きたいと思ったことがある仕事はミュージシャン、漫画家、芸人さんだ。
お医者さんや学者さんに憧れたこともある。
今は子供の頃に自分がするなんて想像もしなかった仕事に就いている。
僕のようなものが仕事をさせていただけるだけで感謝しないといけない。
憧れた仕事の中でもミュージシャンは割と真剣であった。
大学院で学んでいるときも、音楽活動をしていた。
そんな僕がバンドを初めて組んだのは小学校低学年の頃だった。
僕たちの教室の窓にはカーテンとカーテンをまとめるものがあった。
カーテンをまとめるものの名はタッセルと言う。
僕、アキラ、マオ、テル、タイジはそのタッセルをネクタイのように首元に垂らし、ネクタイズと名乗った。
足りない分のタッセルは隣りのクラスから借りてきた。
5人組男性ボーカルグループの誕生だ。
愚かとしか言いようがないが、ネクタイズはその格好でほかのクラスに行き、海外ミュージシャンが来日したかのように振る舞った。
アキラは少し嫌がっていたが、知らない子たちに手を振り、握手をしたり、カタコトの英語で話しかけたりした。
わけがわからない事態を女の子たちは冷ややかな目で見ていたが、男子は熱狂していた。
小学生男子は「何か面白い」という理由だけで熱くなれるのだ。
当初は「ネックッタイズ!ネックッタイズ!」という歓声があがっていたが、発音しにくかったのか、最後には「ネック!ネック!」という叫び声に変わっていた。
現代的な意味で言えば、「邪魔!邪魔!」と言われていたに等しい。
ちなみに日本語のネックはbottleneckから来ていると言われている。
そして解散へ
教室を出ても、「ネック!ネック!」という歓声は続いていた。
同じことが別のクラスでも行われ、大歓声に包まれた。
ここまで盛り上げてしまった以上、一曲も演奏しないのはまずいだろうという雰囲気だった。
僕たちは自分の教室に帰り、さっそく会議を始めた。
当然ながら、ネクタイズの持ち歌などはない。
つい先程結成されたボーカルグループなのだ。
しかしもうあとには引けない。
取り敢えず僕たちは各々が好きな音楽を話し合うことにした。
まずマオとテルであるが、全く音楽を聴かないことがこの時点で判明した。
なぜこの企画にのったんだ、おまいらは。
そして僕であるが、細川たかしさんの「北酒場」しか歌えないことを自覚する。
ネクタイズは海外から来日したというコンセプトがあるので、残念ながら細川たかしさんの曲は歌えない。
頼みの綱のアキラとタイジであるが、クラシックしか聴いたことがないと言い始める。
どんな上流階級育ちなんだ。
そもそも歌詞がない。
かくしてネクタイズは男性ボーカルグループでありながら、歌うことをしないという画期的な手法を取ることとなった。
そしてそれは同時にネクタイズの解散を意味するものでもあった。
熱狂していた生徒たちは、再び教室に入ってきたネクタイズが解散発表をするとは予想だにしていなかっただろう。
※ よろしければ以下の記事もどうぞ。
maruneko-cannot-sleep.hatenablog.jp
maruneko-cannot-sleep.hatenablog.jp