ヤマグン
中学校のときに同じクラスにいたヤマグンはいつか世の中を変えるような何かをする男だと思われていた。
ヤマグンは「山に行ったときに狼と戦ったことがある」などの壮大な虚言を吐くことで知られており、誰しもがフィクションを楽しむかのように話を聞くことが出来た。
ヤマグンがノッているときは虚言の続編を聞けたりするので、それを聞き逃すと少しだけ残念な気持ちになった。
彼は女子生徒の間での人気が想像を絶するほどになかったが、男子生徒の間の人気はさらになかった。
しかしながら嫌われていたかと言うとそんなことはなかった。
ヤマグンは僕たちとは違う世界線に住んでいると思わせるファンタジックな存在であった。
キン肉マンに登場するキャラクターの超人強度を全て暗記しており、一部の男子からはカリスマ的な人気があった。
そして前述したように、いつか大きな何かをすると期待させるような人物であった。
技術家庭科の授業
中学校では技術家庭科が導入された。
そこで僕たちは運命的な出会いをする。
はんだこて だ。
ちなみにはんだごてとも言う。
僕はどちらかというと「はんだごて派」なのだが、これは会社によって呼び名が異なるらしい。
ここでははんだこてとして話を進めさせていただきたい。
知らない方のために説明させていただくと、はんだこてとは金属と金属をくっつける「はんだつけ」という作業に必要な器具のことである。
電子回路をつなげるためによく用いられている。
はんだこては僕たち中学生にとってしたら画期的な器具であった。
こんな風に機械の回路が出来ているということをしり、純粋に感動を覚えた。
たしか技術家庭科の時間ではラジオを作ることになっていた。
クラスメイトははんだこてに感動しつつも、スイスイとラジオを完成させていった。
僕はというと、水彩画をなぞりすぎて画用紙を貫通させるほど不器用な人間であったので、はんだこてだけでなく色々な点で戸惑っていた。
出来上がったのはラジオではなく文明の無機質な進化を嘆く近代芸術作品だった。
それは壊れかけのRadioではなく、全く音が出ないプラスチックの塊だった。
おそらく配線が上手くいかなかったのだと思う。
技術家庭科の先生は失敗した生徒に「放課後に残って作業をやり直させてくれる許可」を出してくれた。
そこで僕は何とか音の出るプラスチックを作ろうと努力していた。
そしてその場所には何か大きなことをする男ヤマグンもいたのだった。
後編に続く
※ 懐かしのはんだこて。
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