※ この内容は以下の記事の続きです。
maruneko-cannot-sleep.hatenablog.jp
ヤマグンの戦い
授業の課題として出されたラジオを完成させるために、学年の数人が放課後に技術室に残った。
この数人というのは授業時間内にラジオを完成させることができなかった極めて不器用な人たちである。
互いに顔を見合わせても納得の面子だった。
その中にいつか何か大きなことをしそうな男ヤマグンがいた。
僕は不思議だった。
ヤマグンは特異点的な存在ではあるが決して不器用ではなかったからだ。
なぜこいつがこのメンバーの中に入っているのか?
もしかして体調を壊してしばらく学校を休んでいたのか?
そしてヤマグンのわきにある傘は何なんだ?
今日は快晴なのになぜヤマグンは傘を持ってきたのか?
もしかして日焼けを気にしているのか?
僕の中でさまざまな思いが去来したが、取り敢えず自分の新品なのに壊れているラジオを直さなければならない。
僕はいそいそと作業に取り掛かった。
早く仕上げて家に帰りたい。
するとそこにイハラ (仮名)が入ってきた。
イハラは内申点をこよなく愛する男だ。
内申点のために生徒会に入り、内申点のために清掃活動をするという気合の入り方だ。
先生からの好かれ方のハンパない。
ほかの生徒が駄目でもイハラだけは許されるという事例が幾つもあった。
それだけならばまだいいのだが、影でけっこう悪どいことをしていたので、疎ましく思っている生徒も多かった。
イハラは「先生、授業で学んだところで解らない部分があるのですが教えてもらえませんか?」と言う。
教室の前で座っていた先生はイハラの登場に気を良くし、図を用いて説明をし始めた。
このときヤマグンが動いた。
ヤマグンは持ってきた傘(どうも壊れていたものらしい)をおもむろに分解し、はんだこてを用いて金属部分を接合し始めた。
先生はイハラに説明するのに夢中になっている。
ヤマグンのペースがあがる。
ヤマグンは傘の金属部分をアンテナにして凄いラジオを作ろうとしていると思った。
頑張れ!
頑張れ、ヤマグン!
ヤマグンは先生の目を盗み続け、作業を続ける。
そこにいた不器用な生徒たちは無言でヤマグンを応援した。
そしてとうとうそれは完成した。
ヤマグンははんだこてを置いて、「ふ〜っ」と大きく息を吐いた。
ベアークローだ。
ベアークローとはキン肉マンに登場するウォーズマンという超人が用いた武器である。
原作に忠実にいけばベアクローが正しい表記だ。
よく解らない人には「鉄の爪」のようなものだと思っていただければいい。
ヤマグンはベアークローを作るために必至になっていたのだ。
ヤマグンは全てを成し遂げて一片の悔いもないような顔をしている。
しかし敢え無く先生にヤマグンのベアークローは見つかり、ヤマグンは技術家庭科準備室に連れて行かれた。
僕は願った。
どうか先生がヤマグンのベアークローを使って指導をしませんように。
※ 何が何だか解らない人は以下の本を読めば解ると思います。
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