何も浮かびませんでした
僕は先程から小1時間ほどパソコンの前に座っている。
「これを書きたい!」というものが見つからないのだ。
けれどもただヌーボーと佇んでいたわけではない。
「何かを残さなければ」という感情に突き動かされて、記事を書いては消し書いては消しを繰り返しているのだ。
最初に書こうと思ったのは数日前に見たオジサマのことである。
その日は風の強い1日だった。
さらに悪いことに雨も降っていた。
僕は雨合羽を着て自転車に乗り帰宅途中だった。
交差点に差し掛かるとロマンス・グレーのオジサマが傘をさして信号待ちをしていた。
そのとき突風が吹いたのだ。
周りの人たちは突風で飛ばされないように傘を抑えていたのだが、そのロマンス・グレーのオジサマだけは髪の毛を抑えていたのだった。
ここまで書いて僕は「この記事を書くのはやめよう」と思った。
そのオジサマに罪はないし、何よりも面白くはないではないか。
オジサマは頭が痛かったかもしれないし、さもなければ髪の毛が痛かったのかもしれないではないか。
こういう誰かを傷つけ得る記事は良くない。
次に僕が考えたのは「今こそわかれめ、いざ」に続く素敵な言葉は何かというものだった。
これならば誰かを傷つけることはない。
僕は安心した。
しかしいざベストフレーズを考えてみるとなかなかいい案が浮かばないものだ。
考えに考えた末に出た案は「サラダバー」だった。
ちなみに「タラバ」というのも考えたのだが、それではあまりにもオリジナリティーがない。
誰でも思いつくアイデアだ。
大喜利はお題が全てと言ってもいいほど、題目が重要だということを思い知らされた。
「今こそわかれめ、いざ」に続く素敵な言葉は何かというお題は悪くはないが、「やってみようのコーナー」にするほどではない感じがした。
そして僕が考えたのは「『肉』の代わりに額に書くべき言葉は何か」というものであった。
これならば誰かを傷つけることはない。
僕は再び安堵した。
しかしいざベストフレーズを考えてみるとなかなかいい案が浮かばないものだ。
考えに考えた末に出た案は「滋賀県全域の大雨警報は解除されました」だった。
額に書くにはかなりの長文だ。
ちなみに「前」というのも考えたのだが、今思うとこちらのほうがシンプルで良かったかもしれない。
この記事は当然のことながらフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません。
※ 被りもの。