信じられないような話
学生のころの話だ。
僕の携帯に1件のメールが届いた。
「綾子ちゃん、智美だけど、中語の宿題の範囲知らない?」
今まで隠してきたが、僕は綾子ちゃんではない。
ちなみに綾子ちゃんも智美ちゃんも仮名だ。
今は詐欺などがあるので絶対に返信などしないが、当時は今よりはおおらかだったこともあり、「多分、アドレス間違ってますよ」と返信した。
すぐに「綾子ちゃん、冗談やめてよ〜」という返事が来た。
そこで「いや、本当に僕は綾子ちゃんではありません。中語って何ですか?」と返信する。
智美ちゃんは事態を把握したのか、謝罪のメールをくれた。
そして2人とも独り暮らしの寂しさがあったせいか、文通のようなことが始まった。
ちなみに中語は中国語の変換ミスだった。
若者の恋
智美ちゃんは隣りの県に住む大学生で、年齢は僕よりも2つ下だった。
英語と中国語を学んでいて、将来は交際関係の仕事に就きたいと話していた。
その反面、実家では着物で過ごしていたり、琴が趣味だったりと古風な面を持っていて、そのギャップがとても魅力的だった。
彼女も僕の経験や学んでいることに非常に興味を持ってくれた。
当時僕は3年半付き合った恋人と別れたところだったし、智美ちゃんも恋人が欲しい願望はあるのだけれど、オクテで男性とうまくいった試しがないと話していた。
そんな2人だったから、恋人のような雰囲気になるのも時間の問題だった。
今では絶対にしてはいけないが、電話番号を交換し、夜遅くまで話し込んだ。
「好きな映画」、「大学の話」、「休日何をしているか」など、取るに足らないことなのに、2人の会話は弾んだ。
一度も会ったことがない2人なのに、である。
それからドキドキしながら、携帯やパソコンで互いの写真を送りあった。
智美ちゃんは一重まぶたのスッキリした女の子で、確かに着物が似合いそうだなという感じだった。
智美ちゃんも僕のことを「アメリカの喜劇俳優みたいだね」と、大変気に入ってくれていた。
会ったこともない2人なのに、どんどん気持ちは燃え上がっていった。
若者の恋とはそういうものだ。
そして、「お互いのために自分を高めよう」ということになり、僕は深夜のジョギングで体をしぼることを始め、智美ちゃんは肉じゃがなどの料理に挑戦をするようになった。
そして毎晩のように、その日の出来事を話した。
2人の恋路は順風満帆のように思えた。
ところが事態は思わぬ方向へと進んでいくのであった。
後編へ続く
maruneko-cannot-sleep.hatenablog.jp