ミナちゃんアゲイン
ミナちゃんは大学のときに同じ講座をとっていた女の子だ。
小動物みたいで可愛らしい女の子だった。
前回書き忘れたが、ミナちゃんはアメリカに住んでいた帰国子女であり、英語はお手の物だった。
今はもうミナちゃんの連絡先も知らないし、これからも会うことはないだろう。
けれどもミナちゃんは本当にいい子で、孤独だった僕を癒やしてくれた女性だった。
独りぼっちの夜を越えて
大学生のある日、僕は風邪をひいた。
扁桃腺が腫れ、39℃近い熱が出ていた。
鋼鉄の胃腸を持つとされる僕であるが、このときは食べ物の消化ができなかった。
電話で「発熱して胃腸がやられて、講座には出られない」とミナちゃんに伝え、バイト先にも体調不良で出勤できないことを報告した。
誰もいない部屋で自分の咳だけが響く。
人間は病気のときほど誰かにいて欲しいと思う生き物だ。
きっと心が弱くなりやすいのだろう。
柄にもなく街の灯りをぼんやりと眺めていた。
次の日、体調はほんの少し改善したが、いまだ動ける状態ではなく万年床に横たわっていた。
そんなおり、ミナちゃんから電話がかかってくる。
「大丈夫?」
「うん、だいぶ良くなった、心配してくれてありがとう。」
「今日、体に良い物でも作りに行こうか?」
あとになって思えば、以前に料理でとんでもない失敗をしたのに再度料理を作ってくれるというミナちゃんのメンタリティーには恐怖すら覚えるわけだが、孤独な夜を過ごした僕には涙が出るほど嬉しかった。
そして女性の方には覚えておいてほしいのだが、看病をされると大抵の男は恋に落ちるようにできている。
前回はあんなことがあったが、やっぱり僕のミナちゃんは結ばれる運命なのだろうとこのときは考えた。
炎の料理人ミナちゃん
ミナちゃんは約束した通りに僕の家に来てくれた。
買い物袋を手に、はにかんだ笑顔を見せてくれた。
はい、もう好きですね。
そしてミナちゃんはエプロン姿になり、キッチンに立った。
聞けばあれから少し料理の練習をしたらしい。
今回の料理は家でも作ったことがあるとのことだった。
嬉しくて涙が出てきた。
万年床で寝返りを打って涙を隠してみせた。
ありがとう、ミナちゃん。
前回のウォッカ肉じゃがは本当にアレだったけれど、今回はウォッカがキッチンにないから安心だ。
グツグツと心躍る音がする。
鍋料理だ。
こんなことを言うと失礼だが、鍋料理ならば安心だ。
ミナちゃんも前回と比べて手際が良い。
表情も自信に満ち溢れている。
トントントンと鷹の爪を刻んでいる。
それから高そうなラー油をドボドボと注いでいた。
鷹の爪とラー油?
胃腸が弱っている僕には刺激的な調味料だ。
そして素敵な麻婆豆腐の出来上がりだ。
赤い。
全体的に赤い。
ミナちゃんは笑顔で麻婆豆腐をよそって、僕に渡してくれた。
ミナちゃんの麻婆豆腐は本当に美味しかった。
五臓六腑に染み渡る刺激的な辛さに僕は思わず痺れた。
ありがとう、ミナちゃん。
僕の胃腸がもう少し強ければ、トイレの中からではなく、面と向かって君にお礼を言えたのだが。
※ ぜひとも食べ較べてみたい美味しそうな麻婆豆腐。
※ よろしければ以下の記事もどうぞ。
maruneko-cannot-sleep.hatenablog.jp