ヤスさん
記事でいろいろな人の話に触れているが、現在もなお親交があるという人は2人くらいだろう。
ヤスさん (仮名)はそんな僕の数少ない友達の1人だ。
ヤスさんは本当にいい人で、結婚して子供がお生まれになるまでは毎週のように一緒に遊んでいた。
僕が女の子とうまく行かずに落ち込んでいた帰り道で電話をすると、「たまたま近くにいるから迎えに行ったる」と行って車で来てくれた。
そして僕のところに着くと、何も言わず僕にコーヒーを渡し、夜の街をドライブしてくれた。
そんな心温まるエピソードに事欠かないヤスさんは、基本的にかなり常識のある人なのだが、1つだけよく解らないことをしていた。
ファミリーレストランでのことだ。
僕たちは深夜のファミリーレストランをよく利用した。
深夜とはいえ、名前を記入して入り口で待つことが多かった。
今はそんなことをしていないが、当時のヤスさんは決まってファミリーレストランで使う名前に偽名を使っていた。
ヤスさんの名字はそこまで珍しいものではないのだが、コンプレックスがあったのかもしれない。
その行為でファミリーレストラン側が困るということもないと判断し、僕はヤスさんの行為を放っておいた。
人のコンプレックスは他人からは解らないものだ。
ただヤスさんは必ず二階堂と書いていた。
カッコいい。
僕も名字が二階堂だったらいいとは思う。
ただなぜ二階堂なのか。
ヤスさんは二階堂に憧れがあるのか?
もしも自分の名字にコンプレックスがあるのであれば、僕の名字を使えばいいのではないかと思ったが、言い出せなかった。
人には触れてはいけない部分があるからだ。
しかしある日の深夜にファミリーレストランに行き、ヤスさんが名前を書こうとしてペンを取ると、小さな異変が起きていた。
1つ前の人が藤村さんだった。
藤村さんもいい名字だ。
ヤスさんが気になったのがその上の名字だ。
島崎さんだった。
ヤスさんは「こういう人が傷つくかもしれない行為は良くないよなぁ」と少し怒っていた。
ヤスさんはとてもいい人だ。
ただたまに判断の線引が解りにくいときがある。
女の子の憧れ、シルバニアファミリー。
ヤスさんの娘さんに二階堂様宛で送ってみようかしら。
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