※ この記事は以下のものの続きです。
maruneko-cannot-sleep.hatenablog.jp
カワシバ
整髪料を使って髪を固めることで、僕の寝癖直しの時間は劇的に短縮された。
しかしその結果得られた髪型がオールバックであったことを当時の僕は知る由もなかった。
「教室に早く着いてよかったなぁ」としか思っていなかったのだ。
しかし教室では僕を睨みつけている男がいた。
ヤンキーのカワシバだ。
カワシバは僕が結果的にオールバックになっていることが気に入らなかったのだろう。
憎々しげに僕を見ていた。
そして次の日になると、カワシバは髪にソリコミを入れてきた。
今となっては、「お前にこのソリコミが入れられるのか?」という威嚇行為だったのだと思う。
カワシバは自分のソリコミを指さして、僕のほうを睨んできた。
僕は「頭が痛いのかな?」と思い、心配そうな顔をした。
カワシバは僕の表情を見て、勝ち誇った様子だった。
しかし僕にカワシバの思いは伝わることがなく、翌日もオールバックで登校をした。
油絵
ちょうどその辺りに、僕は友達の家にお邪魔した。
その家はお母さんが敷地内で美術教室をされていた。
僕は漫画家になりたいと思っていた時期でもあったので、いろいろな美術体験を楽しんでいた。
ところが、不器用な僕は塗料か何かを学ランにぶちまけてしまった。
しかもそのことに気付いたのは、かなり時間が経ってからのことで、塗料は学ランの上に付着し完全に乾いていた。
「これでは学校に行けない」ということで、先生に電話をした。
幸運にも先生は学校にいて、「仕方ないからジャージで来なさい」と言ってくれた。
先生からのお墨付きをいただいたので、僕は翌日ジャージで登校した。
ジャージにオールバックでだ。
クラスメートに明るく挨拶して席につく。
クラスメートたちは距離を起きたそうな表情を浮かべていた。
そんな中、カワシバだけは僕を睨んでいた。
「調子に乗りやがって!」と思っていたのだろうが、僕は気付かない。
クリーニング屋さんがお休みだったこともあり、翌日も僕はジャージとオールバックで登校した。
するとカワシバが僕のほうを睨み、自分の額を指さしている。
ソリコミが深くなっている。
僕は再び「頭が痛いのかな?」と思い、心配そうな顔をした。
カワシバは僕の表情を見て、勝ち誇った感じだった。
しかし僕がカワシバの思いを理解することはなかった。
学ラン
学校から帰る途中、隣の家に住んでいたおばさんと会った。
おばさんは僕の学ランのことを知っていて、「うちの子がもう使わなくなった学生服があるから貸してあげるわ」と言ってくれた。
田舎は田舎で、こういう助け合いの精神があるから素晴らしい。
僕はおばさんに感謝をして、学生服を借りた。
翌日、件の寝癖時短解消法を実施した後、借りた学ランを着てみる。
長い。
そうか、この学ランの持ち主だったお兄ちゃんは180センチくらいあったっけ。
当時、150センチ半ばくらいしかなかった僕がそれを着ると大変なことになった。
完全に長ランだ。
しかし、僕は長ランが不良の象徴であることを知らず、「これもパジャマみたいでいいか」くらいにしか思わなかった。
オールバックに長ランのお通りだ。
その姿を見て、カワシバは「ブフッ?」と咳き込んだ。
「なぜ調子に乗ったことを反省していたアイツは、翌日にはよりヤンキー度が高くなって登校しているのか?」とカワシバは思っていただろう。
僕はそんなことも知らずに、何食わぬ顔で授業を受けていた。
そして翌日、カワシバが再び僕のほうを睨み、自分の額を指さしていた。
ソリコミがさらに深くなっている。
その辺りで僕は自分が置かれている状況を友達に教えてもらった。
ちょうど学ランもクリーニングが終わったので、翌日からはふつうの制服で僕は登校した。
オールバックもジェルがなくなったら、それを再び買うのが面倒くさくて止めてしまった。
かくして、教室の緊張状態は一気に緩和された。
そして僕は思うのだった。
「あのまま続けていたら、カワシバのソリコミは頭を一周したのかなぁ?」と。
ちなみにカワシバは今、呉服問屋を営んでいるらしい。
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