エイプリル・ハズ・カム
初めに述べておくが、僕は全くヤンキーではなかった。
一般市民も一般市民であり、モブ中のモブであった。
ほとばしるバカではあったかもしれないが、自分では善良な生徒だったと思っている。
そんな僕が中学に入学してしばらくしたときのことだ。
頭髪検査がないのをいいことに、僕は髪をのばし放題であった。
小学校の卒業前から床屋に行っていなかった。
4ヶ月以上髪を切っていなかったと思う。
長髪に憧れがあったわけではない。
単純に床屋に行くことが面倒だった。
親から何度も床屋に行くようにと言われていたが、家を出た後で友達の家に行ったりして、結局髪を切らずに家に帰っていた。
そして僕の髪は当時かなり固めだった。
だから寝癖がとんでもないことになっていた。
人はその髪型を...
ズボラロン毛の僕は朝起きると寝癖が凄かった。
肩甲骨の上くらいまで伸びていた襟足が逆だっている。
そのまま外出したら、人に「突風が吹いているのか?」と思わせていただろう。
そしてその寝癖を治すのに5分くらいかかっていた。
中学生の朝の5分はとてもデカいものだ。
そこで僕が目をつけたのが整髪料であった。
いわゆるジェルだったと思う。
洗面所で髪を濡らし、ジェルをつけて髪を流せば、寝癖は瞬く間に消えてなくなった。
5分の整髪が2分弱に短縮できたのだ。
この時短は本当に意味があるものだった。
僕は大変満足し、しばらくこの整髪の仕方を続けようとおもった。
しかし、人はその髪型をオールバックと呼ぶことを当時の僕は知らなかった。
オールバックが登校したら
ガッチガチのオールバックの僕は、時短効果のおかげで、いつもより数分早く家を出ることに成功した。
ゆうゆうと中学校に間に合い、教室の扉を開けた。
するとクラスが少しザワッとした雰囲気になったらしいのだが、当時僕はオールバックが何かを知らなかったので全く気づかずにいた。
このあたりの話は後日友人が話してくれた内容をもとにしている。
まだクラスメートにも挨拶をしたが、昨日までとは様子が違っていた。
放課後、部活に参加したときも、僕のオールバックは完璧なスタイリングを維持していた。
部活にいた先輩は「んおっ!?」と言っていたが、昨日までマッシュルームカットだった後輩の突然の変容に恐怖を覚えたのか、努めてふつうに部活動を続けていた。
しかしそんな僕のオールバックを憎々しげに見ていた人間がいた。
ヤンキーのカワシバだった。
そのあと、僕とカワシバの直接対決に突入することはこの時点では誰も予想だに出来ていなかった。
後編に続く
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