筋トレと私
長いこと筋トレをしてきて、何のトレーニングをすると、どこの筋肉に負荷がかかっているかわかるようになった。
多分才能のある人からすれば、最初からわかったことなのだと思う。
でも僕からすればこれは大きな進歩だった。
少し体をひねるだけで負荷がかかる場所が変わるのがわかる。
体を持ち上げる速度を変えることで、筋肉への刺激が変わるのがわかる。
僕は「これが筋肉と会話をすることなのか」と感慨深げに思った。
筋肉と会話をすることができるようになった僕は腹筋に尋ねてみる。
僕の腹筋よ、お前はいったい何を望むんだ?
そして僕の筋肉は答えるのだ。
「しばらくトレーニングを休みたい」と。
わんぱくな奴め。
これだから6パックを目指しているのに、なぜだか1パックに近づいてしまうのだ。
胸筋より上と足の筋肉は年齢の割に鍛えられているのに、お腹だけポヨンとしてしまうのは、筋肉の声に耳を傾けすぎるからだろうか。
空気抵抗の非常に少ない流線型のボディーになっている。
よく言うならば、ドイツ車やイタリア車のような魅力に溢れたボディーである。
毎日筋トレをして、毎週10キロ以上走るのに本当に不思議な現象だ。
「前世がプリンではないか」とまことしやかに噂されるだけはある。
そんな筋肉がさらに僕にささやく。
「あっちん...あっちん...」
そう言えば、そんな名前の人間がクラスにいた。
筋肉に言われて思い出した。
あっちんでは解らない人にはクリスマスあつしと言えば解るだろうか。
マジックで自作のタトゥーを腕に描いていたあっちん。
傘を反り返らせて雨を貯めていたあっちん。
ことあるごとに飼い犬に手を噛まれていたあっちん。
1日に2度も先生から名前を間違えられていたあっちん。
「どこでもドア」を「どこへでもドア」と言っていたあっちん。
カッコいいと信じ込んで、全ての机に「Z」という文字を彫っていたあっちん。
遠足にふりかけをおやつとして持っていったあっちん。
蝉の抜け殻を机の中に貯めていたあっちん。
蜜を吸いまくり、花壇から花という花を取り尽くしてしまい、先生から怒号を浴びせられたあっちん。
プリントを提出できない理由に「お母さんがプリントを捨てちゃった」と言いたかったのに、「プリントがお母さんを捨てちゃった」と言ってしまったあっちん。
自分でも薄々気がついている。
多分、あっちんじゃないヤツの記憶が混じってしまっていることに。
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