真夏の夜のフュメ [後編]
フュメ [ヒュメ]
①獣の匂い
②芳しい香り
③出し汁
横になっている布団が鋼鉄製で痛くて眠れない。
そんな話はどこにでもあるものだ。
僕の布団も例に漏れず鋼鉄製、いやもうオリハルコンのような硬さを誇っている。
なんだったら魔王攻略戦でも頼れる武器として使えるのではないかと思うほどの硬度を誇っている。
冷静になって考えると笑えてくる。
横になると体が痛くなる布団なのだ。
そしてこれではならぬと思いたち、僕はこの布団とともに夜をこすために工夫をし始めた。
材料
厚手の座布団2つ
抱き枕2つ
バスタオル
まず座布団2つを重ねる。
そしてその上に抱き枕を「||」のように2本並べて置く。
抱き枕は長いので半分が座布団からはみ出て、自然と全体が「⊿」のような形状になる。
その上にバスタオルを敷けば簡易性のスロープができあがりだ。
先ほど僕は「この布団とともに夜をこす」と言ったが、前言撤回宜しくオリハルコンの布団の上に傾斜のあるベッドを作ったのであった。
これは大地から離れた場所に生きる行為とも取れるため、僕はこのベッドをムスカと名付けたわけなのだが、これが存外心地が良い。
まず柔らかいし、バスタオルこそあれども抱き枕と抱き枕の間に寝るわけなので、首が安定するのだ。
攻略した。
今なら童に「人間の叡智は硬い布団になど負けんよ」と言える。
僕は意気揚々とムスカに横になり、すんなりと入眠した。
ところがこのムスカを持ってしても抗うことができない事態が発生する。
暑い。
汗ビショビショになり、真夜中に暑さで目覚めてしまった。
2時間も寝ていない。
恐る恐る見た温度計は35℃を指していた。
僕は唖然とした。
まだ7月に入ったところなのだ。
あのままムスカに横になっていたらと思うとゾッとした。
ムスカだと思ったらキリコだったことはよくある話だ。
そして僕に風を送り続けてくれた命の恩人である扇風機を僕は抱きしめた。
それはもう西部劇のヒーローに抱きつく少年のように扇風機に感謝したのだった。
僕はそれから2階のキッチンに移動してクッションを敷いて横になった。
そこは31℃程度であり、かろうじて眠れたからである。
朝起きると奥様が汗びっしょりの僕を見つけてこう言った。
「あんた、獣のような匂いがするよ。」
真夏の夜に僕の体は焦がされたのだった。
蛇足
翌日3階は33℃だったのでムスカがあれば眠れると高を括っていたのだが、何ともなりませんでした。
この記事は当然のことながらフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません。
※ 真夏の夜の夢。
- 価格: 3820 円
- 楽天で詳細を見る
[rakuten:masuisaketen:10000770:detail]