真夏の夜のフュメ [デイズ・アフター]
フュメ [ヒュメ]
①ケモノの匂い
②芳しい香り
③出し汁
あなたは僕の作成したムスカを知っているだろうか?
オリハルコン製の布団の上に座布団2つを重ねる。
そしてその上に抱き枕を「||」のように2本並べて置く。
抱き枕は長いので半分が座布団からはみ出て、自然と全体が「⊿」のような形状になる。
その上にバスタオルを敷けば簡易性のスロープができあがる。
我々オリハルコン製の布団に眠る人間はこの寝具のことをムスカと呼ぶ。
大地である布団から離れて生きようとしているのだ。
そもそもオリハルコンという言葉が出てきた時点で、なぜ布団と話とつながるのかわからないという読者様もいるだろう。
大丈夫、あなたは正常だ。
こんな哀しい出来事はほかの人に起きてはならない。
前回僕は快適寝具ムスカを用いることでオリハルコン製の布団を攻略したと思われたが、真夜中にも関わらず35℃を計測するという異常気象のせいで敢え無く睡眠戦争に敗北を喫した。
ちなみに我が家は家の中のほうが外界の気温よりも高くなるという哀しいくらいミステリアスな仕様になっていることを付け足しておく。
背に腹は代えられない。
僕はプライドを捨て、エアコン様に頼ることにした。
30℃に設定しても部屋は快適に感じられるほどだったので、エアコン様のお力を借りる前はどれだけの高温であったのかお解りいただけると思う。
そして僕は快適な眠りに誘われていった。
事件に気付いたのは起床後だった。
僕は久しぶりに5時間も眠れたと喜びながら身体を起こしたその刹那、腰に激痛が走った。
ムスカの逆襲だ。
柔らかく踏ん張りの聞かない不安定な場所に5時間も横になっていたせいだろうか、左の腰に腰椎すべり症のような痛みが走った。
ムスカ、お前もか。
僕はヘルニア持ちなのですぐにコルセットを巻いた。
そのおかげか、かろうじて歩行することはできるようになった。
ただし左腰の痛みが強くて左折ができないという個性を付与されていた。
僕はティラノサウルスのような歩行スタイルで2階に降りていき、奥様に「おはようございます」と挨拶をする。
奥様は朝食を作りながら、僕を見てこう言った。
「何そのバケモノみたいな歩き方は?」
先日は汗だくの僕からケモノの匂いがすると言い、本日はバケモノのような出で立ちだと形容される奥様に座布団1枚をあげだいと思った。
是非ともムスカに使った座布団を持ってこようと思った。
この記事は当然のことながらフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません。
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