スキンケアあるある
ある昼下がり何気に鏡を見た。
意識的ではない。
ふだん鏡などみないたちだが、奥様が姿鏡を部屋に置きだしたせいだろうか、否が応でも自分の顔が見えてしまうのだ。
するとどうだろう、自分の頬に何やら黒い点々が見えるではないか。
奥様に見せると、彼女はにやりと笑みをたたえながら、「ああ、そりゃあシミだわ」と言う。
「ヘンドリックスってこと?」と僕が必死で現実逃避しようとしても、温室の中の花のようにか弱い奥様は「うるせぇ、だまれ、ジミじゃねぇ、シミ!」と僕に事実を突きつけてくる。
ああソウルフルでかっこいいジミー、僕はロックンローラーになれないままシミができてしまったよ。

心の成長がガラスの10代で止まっているせいか、どこかで「肌も10代のまま」だと思っていたのは事実だ。
それゆえに朝に洗顔をするといっても、水をぶっかけておしまいというケースが多かった。
いや、やはり正直に言おう。
「多かった」ではなく、それしかしてこなかった。
顔を洗顔石鹸で洗うとかそんなことは生まれてこのかた1度もしたことがない。
それだけならまだいいのかもしれない。
僕はお風呂でも洗顔石鹸を使ったことがないのだ。
では何を使って顔を洗うのか?

シャンプーだよ、ワトソン君。
もうこうやっておどけないと過去の自分の愚行を許せない自分がいる。
ボディーソープで顔を洗うこともあった。
洗顔用のクリームを使って顔を洗うことで作業工程が1つ増えることが許せなかったのだ。
ああ、まる猫よ、愚かなり。
いつまでも10代の肌質でいられると思うとは、なんと愚かなことか。
それほどまでに僕の頬の黒い斑点は僕の心を揺さぶった。
僕は相手のスパイクを拾えなかったバレーボール選手のように地面に崩れ込んだ。
そして思うばかりの声で叫ぶのだ。
「愛をとりもどせ!!」と。
もう錯乱状態もここまでくると常人の理解を超えていると思うが、そんなことはどうでもいい。
温室の中の花のようにか弱い奥様は「うるせぇ、だまれ、こんな旦那をもってこっちがショックじゃ!」と倍返しの大声で僕を叱りつける。
とりあえずスキンケアの前に奥様に座布団を用意するのが先決だと僕は思うのであった。
※ 私愛用の乳液。