まる猫の今夜も眠れない

眠れない夜のお供に

【真実の恋愛物語】夏空に流れ星 (後編)

※ この内容は以下の記事の続きです。

maruneko-cannot-sleep.hatenablog.jp

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空港

それからしばらくミミコとは会なかった。

夏休みが始まったのだ。

僕はドラム君と2人で練習場にいた。

リズム隊として練習をしていたのだ。

練習が一息ついて、ペットボトルのお茶を体に注ぎ込む。

それでも発汗に追いつかなくて、もう一本ペットボトルを開ける。

ドラム君が僕に言う。

「ミミコと何かあった?」

「いや、何もないよ」と僕は答える。

ドラム君はしばらく考えて、こう言った。

「今日、オーストラリアに出発だってこと内緒にしとけって言われたよ。」

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僕からはため息のような声だけが漏れて、視線を床に落とした。

静かに息をして、そして立ち上がった。

空港へ走るためだ。

間に合うかわからない。

電車を乗り継ぎ、何とか空港に着いた。

そしてミミコを探した。

一緒に来てくれたドラム君も空港を探し回った。

けれどもミミコはいなかった。

そして僕は、自分の心の中のミミコのスペースはほかの誰にも埋めることができないことを知った。

 

夏の終わりに

それから僕はぼんやりと夏を過ごした。

見るもの全てが色彩を失ってしまったかのように、無機質に映った。

楽曲を作ろうにも、音をつなげることができない。

そして夏も終わろうかというある日、練習場に行くとミミコがいた。

「ただいま」と笑顔でミミコは言う。

「おかえり」と言い、僕もつられて笑顔になる。

僕たちは2人ともわかっていた。

僕たちは練習場の近くの誰もいない広場に行った。

眼の前には見渡す限り稲穂が青々と茂っていた。

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ミミコは僕におみやげと言って、袋を渡した。

「それ買うの大変だったんだよ。」

袋を開けるとブーメランが入っていた。

「ありがとう。」

おみやげのブーメランは思ったより軽くて、人に当たっても痛くもないような素材でできていた。

多分、子供のおもちゃのブーメランだったと思う。

突然風が吹き、稲穂が揺れる。

蝉の声はもうあまり聞こえない。

夏が終わろうとしていた。

「ミミコがいなくて寂しかったよ。」

僕はミミコに背を向けながら言った。

「ミミコがいなかったから、心がいつもどう動くのか忘れてしまったよ。」

僕は振り返り、ポリポリと頭をかいた。

ミミコは下を向いた。

「キミは...キミは...ズルいよね。」

遠くで車の音がする。

僕は誰もいない稲穂の方へ歩き出した。

手にあったブーメランを振りかぶる。

このブーメランが戻ってきたら、ミミコに言おう。

僕とミミコの関係に名前を付けよう。

そして彼女を幸せにできる自分になろう。

ブーメランは僕の手を離れ、秋の気配がする空に吸い込まれた。

 

そしてそのまま戻ってこなかった。

 

え、ブーメランって戻ってくるものじゃないの?

1分経っても2分経ってもブーメランからの音沙汰はなかった。

無人の田んぼに不時着した模様だ。

 

ミミコはこの状況にひいていた。

 

自分が苦労して買ってきたおみやげが、一投で無に帰した瞬間であった。

 

そして僕も完全にひいていた。

 

さきほどの状況を台無しにする芸術的なまでの失敗に唖然としていた。

 

そしてブーメランが戻ってくることがなかったように、彼女の心も戻ってくることはなかった。

 

※ よい子の皆さんは無人の場所であっても、何かを投げるときは注意して投げましょう。

 

※ ブーメラン。