まる猫の今夜も眠れない

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【真実の恋愛物語】夏空に流れ星 (中編)

※ この内容は以下の記事の続きです。

maruneko-cannot-sleep.hatenablog.jp

 

夏のひこうき雲

バンドのリーダーはドラム君だった。

彼は人格者で顔が広くて、同年代から社会人までたくさんの人脈を持っていた。

彼のコネで、僕たちは小さなライブハウスでライブをさせてもらえることになった。

もちろん、何組か演奏するうちの1バンドに過ぎない。

演奏時間も10分だった。

けれども僕たちは嬉しくて、土日はもとより、平日も練習場で準備をした。

ドラム君が自分の家の納屋を改装して一室作ってくれていたので、練習は毎日でもできたのだ。

ミミコの気合の入れ方はかなりのもので、練習後も汗びっしょりになっていた。

空調設備がなかったのもある。

相変わらず僕たちは毎晩電話をし、ライブに向けての話し合いから、ミミコの髪型、クラスメートで付き合っている人たちの話、最近聴いたCDの話をした。

まるで僕たち2人だけの言葉で話しているかのような気分だった。

誰も2人の世界には触れることができなかった。

練習のかいもあって、ライブは大きなミスも起きずに終わった。

演奏時間が10分だけだったのが結果として良かったのだろう。

僕たちは満足して、ライブハウスをあとにした。

そして僕とミミコは2人で駅に向かった。

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ミミコは「ライブ、楽しかったね」と言う。

そしてソーダを口に運んだ。

ベースを担ぎ直して、僕は「ミスなく終われて良かった、でもリズム隊はもっと練習しないといけないなぁ」と答える。

するとミミコは小さな背中を見せてつぶやいた。

「あたし、オーストラリアに行くんだ。」

彼女は市の交換留学生に選ばれたらしいのだ。

僕は驚いた。

彼女も僕の驚きがわかったのだろう。

「でも1か月だけの短期留学だよ。」

「なんだ、そうか、じゃあバンドは1か月はお休みだな。」

「お土産何がいい?」

「ブーメランに決まってるでしょ。」

他愛もない会話が続く。

そしてミミコは振り返り、小さく笑って言った。

「あたし、キミに1月会えないと寂しいな。」

夏の青い空にひこうき雲ができている。

心なしか蝉の鳴き声が静かに聞こえる。

「空港には見送りに行くよ。」

何千何万という言葉の中から、僕はそれを選んだ。

彼女は下を向いた。

待っていた言葉ではなかったのだろう。

僕はズルくて、自分に自信がなかった。

蝉がまた大きな音で鳴き始めた。

風に緑が揺れる。

ミミコはまた背中を見せて、夏の空を見上げた。

小さな肩が揺れていた。

その日ミミコからの電話はなかった。

次回に続く