まる猫の今夜も眠れない

眠れない夜のお供に

指圧師の仲嶺さん (仮名) 【後編】

指圧師の仲嶺さん (仮名) 【後編】

「中編が要らなかった」とかそんなことはどうでもいいじゃないか。

「前編の『うかつに大空を見上げながら激走していると、下半身辺りが凶悪犯罪に巻き込まれることもある』がピークだった」などはもっとどうでもいいじゃないか。

豆でも食べて気を取り直そうよ。

なんてったって豆はインゲンだもの。

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紆余曲折あり、首が痛い僕は指圧をしてもらうことを決めた。

家の近くに全国的にも有名な整形外科医院がある。

粋で最高にかっこいい先生が経営されているので人気があるのも無理はない。

僕も首や腰を痛めたときは何度かお世話になり、すぐに治してもらったことがある。

まさに名医だ。

ただ人気が有りすぎるのが問題ではあった。

先生の診察を終えてから、別室で指圧師さんにリハビリをしてもらうわけだが、あまりの人気のため待合室はごった返している。

そして先生は新聞にも載るような名医であり、診断はすごく丁寧で、優しくわかり易い言葉で患者に寄り添ってくれるのだが、能力が高すぎて患部をすぐに見抜くので診断自体は滅茶苦茶速い

それで何が起こるかといえば、診断が終わりリハビリを待っている患者さんが待合室に無限増殖していくのだ。

つまり先生の診断のスピードが指圧師さんのリハビリテーションのスピードを大きく凌駕しているのである。

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結局その日は診断をしていただいたあと、2時間ほど待った。

おかげで昭和のプロ野球についてかなり詳しくなることができた。

それからリハビリテーションの部屋に案内されると、そこには指圧師の仲嶺さん(仮名)がおられた。

仲嶺さんはそれまで幾人の指圧をされてきたか解らないほど疲れ切っていた。

「いや、僕よりもあなたがリハビリテーションを受けなさい」と言いたくなるほどの満身創痍っぷりであり、大量の汗もかかれていた。

それでもプロ意識の高い仲嶺さんは指圧には一切手を抜くことはなかった。

流石である。

僕の症状を聞き、施術が痛くなりすぎないように調整をしてくれた。

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そして仲嶺さんの快進撃が始まる。

「ふんっ!」

ああ、凝りがほぐれて気持ちいい。

すごい技術ですよ、仲嶺さん。

「ふんっ!」

この値段でここまでやってくれるなんてありがたいなぁ。

「ふんっ!」

おや?

「ふんっ!」

ほほう。

「ふんっ!」

そうなんですね。

「ふんっ!」

仲嶺さん、あなたは指圧するときに声がもれちゃうパターンの人なんですね。

やばい、面白すぎる。

「ふんっ!」

そして仲嶺さんはその後、信じられない言葉を発するのであった。

「こんな硬いの初めてだ。」

嗚呼、仲嶺さんは何も悪くなかったのですね。

悪いのは全て僕の首です。

指圧するのに声がもれるほど気合を入れないといけないほど硬い僕の首が悪いのです。

僕のことは「首だけアイアンマン」と呼んでください。

それで気がすまなければ「お腹は魔人ブウ、首だけアイアンマン」と呼んでください。

僕は心の中で仲嶺さんに詫びた。

夜も8時を過ぎたリハビリテーション室では仲嶺さんの「ふんっ!」という声だけがこだましていた。