冬が始まる
奥様が録画したドラマを見たいらしく、「ジョギングでもしてきたら?」とおっしゃってくれた。
奥様はドラマを独りで見たいタイプの人だ。
いや、正確には結婚当初はドラマは一緒に見るという約束ごとがあった。
それが今やよほどの大作でない限り、一緒に見ることはない。
奥様曰く、僕がドラマにツッコむのがムカつくらしい。
僕としてもドラマを見るよりもジョギングがしたいのでwinwinの申し出だった。
かくして僕は冬の始まりを感じさせる11月下旬にジョギングをした。
走り出しの寒さをこらえたら、夏と比べてこの季節はかなり走りやすいと言える。
心地よい疲労感を感じながら、ゆっくりとペースを上げていく。
登り坂に差し掛かったところで、前を歩くお年寄りの男性が大きく体勢を崩されて転倒された。
僕は「大丈夫ですか?」と走り寄り、落とされた帽子を拾い上げて男性に渡し、さらに転がった杖を拾って手渡した。
僕が軍手をしていた分、男性も僕に所有物を触られることに抵抗感が少ないと思った。
男性は「助かりました」と言っておられたが、高齢だとお見受けしたので念のため「救急車を呼びますか?」と尋ねた。
男性は「いや、痛いけれど歩けないことはないから、それには及ばない」とはっきりとした日本語で答えてくださった。
僕は「わかりました、では失礼します」と言って、その場を立ち去った。
まぁそれだけのことなのだが、僕はあることに気付いた。
詳しくは以下の記事を見ていただきたい。
maruneko-cannot-sleep.hatenablog.jp
僕が気付いたというのは「多くないか?」ということである。
多いというのは高齢者の方が転ばれる頻度を指している。
高齢者の方が転ばれることはよくあるとは思うし、それをお助けさせていただくことは寧ろ義務だと思っているくらいだ。
特に同性であれば抱えるくらいはたやすく行える。
異性だと向こうが嫌な気になるのが怖くて正直躊躇してしまうところはあるが、許可を頂いておぶったりはしたことはある。
ただ1月に1人以上の高齢者が自分の眼の前で転ばれるという頻度は多いのではないか?
こうなると僕に問題があるのかと思ってしまうくらいだ。
僕が重すぎて走るたびに地面が揺れているのだろうか。
そんなことを考えながら僕は走り続けた。
僕のジョグは距離は長いが、速度は遅い。
すり足のように進むので、足は大きくあげない。
だからガンタンク並みに安定感がある。
しかし今日は走っているときに地面のちょっとしたでっぱりに足がひっかかった。
そして敢え無く僕は道端ででんぐり返しをすることになったのだ。
「交通量の激しい道路でなくて良かった」とアスファルトに倒れながら僕は思った。
地面に口づけできる距離に僕の顔がある。
すると小学生と思しき少年が僕のもとに駆けつけて言った。
「大丈夫?」
意外と恥ずかしい。
次から高齢の方が転ばれたときにはその質問は聞かないようにしよう。
少年は続けて言う。
「自分で立てる?」
「うん、立てるよ、ありがとう。」
そう言って僕は立ち上がった。
僕は少年に感謝をした。
そうか、こうやって人は助け合っていくんだな。
僕が高齢の男性を手助けさせて頂いて、少年が僕を手助けしてくれている。
そして少年は続けた。
「あんまり外で転ばないほうがいいよ。」
少年よ、どこであっても転ばないほうがいいに決まってるんだよ。