探偵への憧れ
小学生の男の子が一度は憧れるのが探偵だ。
自分の頭脳だけで難事件を解決する姿がかっこよく、小学生は虜になってしまう。
かく言う僕たちも探偵に憧れていた時期があり、友達同士で「ふかしいも探偵団」なるものを結成した。
なぜ「ふかしいも」なのかがもはや永遠のなぞなのだが、取り敢えず文房具屋で虫眼鏡を買って、今か今かと事件が起こるのを待っていた。
しかし当然のことながら、事件なんてものはそうそう起こるものではなく、探偵団は開店休業状態が続いた。
結成当初は友達の家は、ゲームをしたりする団員、駄菓子を食べながら談笑する団員、虫眼鏡のグリップが目に刺さり「ぎゃあぁぁ」と叫ぶ愚かな団員で溢れていたが、これといった活動がないことがわかるや一人また一人と脱退する団員が増えた。
結局、往生際が悪い僕、マオ、アキラの3人だけが団員として残った。
そしてそんな僕たちの前に初めての事件が起きたのだ。
友達のヤンシ
ヤンシは小学校のクラスメートだ。
心優しいヤツで、楽器が上手だった。
特にギターが上手で、僕たちはわざわざヤンシの家に行ってギターを弾いてもらっていた。
エレキギターがとてもカッコいいと思っていたのだ。
そんなヤンシが髪を伸ばし始めたことがあった。
ヤンシには長髪が似合っていたし、僕たちは特に気にすることもなく付き合いを続けていた。
ある日、ヤンシの家に遊びに行き、ヤンシのお母さんと話す機会があった。
ヤンシのお母さんは「髪長いでしょ」と言った。
僕たちは出してもらったお菓子を食べながら「似合ってるからいいんじゃない?」と答えた。
すると、ヤンシのお母さんは「でも床屋のために渡した2千円がないって言うのよ」と続ける。
当時床屋代は2千円でお釣りが来るくらいだった。
「私が聞いても、『どこかに置いてきた』としか言わないし」とお母さんは言う。
僕たちはお菓子を食べる手を止めて「ふーん、不思議だね」と言う。
ヤンシは1階にギターの弦を取りに行っていて、そこにはいなかった。
ヤンシのお母さんは言った。
「何か変なことに巻き込まれているといけないから、あの子が何で床屋に行かないのか調べてくれない?」
今思えば、ヤンシのお母さんは単純に事情を聞いてほしかっただけだったと思うが、当時の僕らにはその言葉は依頼ととらえてしまった。
「任せてください、僕たちはどんな事件でも解決してみせます!」
ヤンシのお母さんは僕たちが異様に乗り気なことに戸惑いを隠せない様子であったが、「じゃ...じゃあ、お願いするわね」と微笑んだ。
しかしこの事件は僕たち素人探偵には手に負えないものであることを僕たちは知るのであった。
後編に続く