驚きの発言は記事の最後で
職場には轟さん(仮名)という女性がおられる。
年齢は僕と同じくらいか少し上の方だと思う。
轟さんは最近パートタイマーとして入社された方で、いつも一生懸命な女性だ。
ほんの少しだけおっちょこちょいであるが、仕事に全力を尽くすところはとても好感が持てる。
実際彼女は職員の身の回りの世話をしてくださる大変有り難い方である。
僕は縁の下の力持ちとなって職員の仕事を支えてくれる方々にいつも感謝しているので、轟さんが重いものなどを運んだりするときは必ず手伝うようにしている。
そんな轟さんであるが、ある日僕のところにやってこられて、予想だにしなかった言葉を発せられた。
僕はしばらく呆然として立ち尽くしまったほどである。
その日、僕は仕事場でコーヒーを飲みながら資料に目を通していた。
それから体をほぐすために伸びをし、トイレに行こうと立ち上がった。
トイレまでは少し距離がある。
スタッフルームを横断して行くと、共有机の上に紙袋が置いてあるのに気付いた。
うちの職場では確か紙袋は保存しておくというルールがあった。
おそらくスタッフの誰かが紙袋をしまう前に電話か何かで呼び出されたのだろう。
僕はそう思って、代わりにその紙袋をしまおうと思った。
さてさて紙袋はどこにしまうのだっけ?
確か所定の位置があったはずだ。
僕はその紙袋保管場所を探して、スタッフルームを徘徊し始めた。
まずはスタッフのデスクにほど近い場所にあるキャビネットの中を調べた。
中には紙袋の類はなく、いつのものだか解らない資料だけがあった。
これは時間があるときにきちんと整理しよう。
そう思って次の心当たりを調べる。
壁際に文房具を保管してあるタンスがあるのだ。
そこに紙袋をしまう場所があっても何ら不思議はないだろう。
ところがそこにも紙袋保管位置はない。
ボールペンの芯、修正液、乾電池などが所狭しと並べられていた。
ここでもないのか。
そうして腕を組みながら宛もなく歩いていると突然閃いた。
給水室にある流しの上の棚だ!
僕は早足で流しまで行き、シンクの上の棚を開けた。
そこには自家製の紙袋入れがあった。
ああ、よかった。
僕は先程の紙袋をその入れ物の中に押し込み、意気揚々とトイレに行き、それから自分の席に戻った。
ひと仕事終えた気分だった。
そこに轟さんがやって来て、僕にこう言った。
「流しの上の棚にはお菓子が入っていますが、明日出すものなので食べては駄目です。」
僕は返す言葉もなくその場所に立ち尽くした。
轟さん、僕は空腹でおやつを求めて彷徨っていたわけではないんです。