いつもと違う週末
金曜日の夜、仕事を終えて帰宅する。
帰り道で寄ったスーパーで買ったうずら卵のせ竹輪を肴に一杯飲んで、一週間のストレスを発散させようというはらでいた。
ほんの少しだけウキウキしていたわけだ。
この週に一度の夜の時間が最近の愉しみだ。
ところが家に着き、ダイニングに入るとすぐに異変に気付く。
奥様が男梅のような顔をして鎮座しておられた。
小宇宙の高まりを感じる。
恐る恐る「何かわたくしが悪いことでもしましたか?」と尋ねると、「リモコンがないのよ」とお答えになられた。
聞けば奥様が料理をされているときに幼い子供が遊びでリモコンを隠したようだ。
奥様は生粋のテレビっ子であり、口をあんぐり開けながら録画したテレビ番組を見ることが育児中のささやかな愉しみなのらしい。
ぼ〜っとしている時間がどうしても必要なようだ。
そしてぼ〜っとするとどうしても口が開いてしまうらしい。
一度などはあまりに見事に奥様の口が開いているものだから、大陸間弾道ミサイルでも打ち出されるのではないかと思ったほどだ。
そんな奥様であるからテレビのリモコンがなくなるということは大事件なのであった。
「リモコンなんかなくてもいいだろう」と思われるかもしれないが、我が家の場合は実際のところ大問題なのである。
我が家のテレビはアジアのとある国から輸入されたものであり、入力切替がリモコンがないとできない。
そして奥様が録画されたテレビ番組は入力切替ができないと映らないという代物なのである。
したがってリモコンがなければ録画した番組もケーブルテレビも見ることができないのだ。
(ちなみに子供がふだん見る番組もリモコンがないとテレビには映らない。)
ならば汎用リモコンを買えばいいと思い、奥様が電気屋さんに電話して聞いたところ、このインターナショナルなテレビに対応するリモコンが日本には売っていないということらしい。
そこで奥様はそのインターナショナルなテレビを作った会社からリモコンだけを送ってもらおうと画策した。
ここまでする奥様の執念が恐ろしい。
彼女にとって夜独りでテレビを見る時間と喫茶店でコーヒーを飲みながら女性週刊誌を読む時間はかけがえのないものなのだ。
しかし奥様の願いはもろくも崩れ去った。
その会社は数年前に営業を止めていたのだった。
八方塞がりとはこのことである。
奥様はしばらくの間エクトプラズムが出た状態だったらしいが、大好きなテレビが映らないという状況にストレスをためられ、男梅のようなお顔になっていかれたらしい。
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かくして我が家にテレビのない週末が訪れた。
それは奥様の中の小宇宙が高まっていく週末でもあった。
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