まる猫の今夜も眠れない

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【ほのぼのストーリー】猫のはなし (ラヴィのケース)

茶店にて

社外での仕事はとても緊張する。

何が緊張するって待ち合わせに遅刻するんじゃないかという不安があるからだ。

だからいつも予定時間の1時間前には待ち合わせ場所に着いておき、近くの喫茶店で時間を潰すようにしている。

昔は独りでお店に入ることが苦手だったが、最近は携帯電話があるせいかそれほど苦にならなくなった。

携帯電話で本やマンガを読めば、周りの視線や声を気にしなくてもいいからだ。

自分の世界に入りやすくなったのだろう。

その日も社外での仕事があり、待ち合わせの1時間前に喫茶店で時間を潰していた。

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冷たいものを飲んでお腹を壊すといけないから、僕はいつもホットコーヒーを頼んでいる。

お腹を壊しやすい人は色々と苦労があるのだ。

その喫茶店は都会のど真ん中にあり、どこか垢抜けている感じがした。

お客さんもまずまず入っていたが、充分なスペースがあり快適であった。

しばらくして観葉植物を挟んで男性が2人座った。

店員さんと顔見知りなところを見ると、おそらく常連さんなのだろう。

便宜上、AさんとBさんと呼ぼう。

2人とも60歳くらいだろうか。

Aさんは顔に絆創膏が貼ってあり、個性的なファッションセンスをされている方だった。

サテン生地の紫のシャツと重厚感あるレザーパンツを着ていて、首には赤いマフラーが巻かれていた。

多分クセの強い方なのだと思うが、僕はそういう人は割と好きだった。

Bさんは柔和な顔をしており、フリースとチノパンを着ていた。

Aさんは結構な大声で話していたので、そんなつもりはなくても会話はほとんど聞こえてきてしまった。

Bさんは笑顔で頷いている様子であった。

ラヴィというのはAさんの猫だと思う。

会話の冒頭でラヴィの話になったからだ。

冒頭の内容は記事の最後で紹介するが、la vieという名前もAさんの個性が光っている。

おそらくフランス語で「人生」を意味するのではないか。

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Aさんは確固とした考えを持っている人で「恋愛のことしか歌わない歌手をアーティストとは呼ばない」などとかなり過激なことを言っておられた。

「だからいつまで経っても日本人は恋愛至上主義になって大切なことに目を向けられないんだよ」とコーヒーをすすりながらAさんは語り、Bさんはそれに「うんうん」と頷いていた。

Aさんは「もっとさ、社会にはびこる不公平とか貧困みたいに歌うべきテーマはたくさんあるのにな」と述べていた。

僕は携帯電話で小説を読もうと思っていたが、漏れ聞こえる会話の説得力になかなか自分の世界に没頭できずにいた。

Aさんは続ける。

「最近はテレビや雑誌も芸能人のスキャンダルを追っているだろう。

そんなことよりも社会の中にある不正に目を向けるほうがメディアとして意味があると思うんだよな。」

Bさんは微笑みながら「うんうん」と頷いていた。

「結局さ、自由じゃないんだよな、この国は。

もっと自由を求めて歩みだしても良い頃だと思うよ。」

Aさんはそう言ってコーヒーを飲み干して、店員さんにおかわりを求めていた。

とてもためになる話だった。

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けれどもストンと胸の中に収まらない何かがあった。

話は会話の冒頭部分にまで遡る。

Bさんは言う。

「顔の絆創膏、どうしたの?」

Aさんは答える。

「昨日さ、ラヴィに引っ掻かれたんだよ。

可愛くてずっと抱っこしてたらさ、急に引っ掻きやがってよ、あの猫。

俺の手の中から飛び出して、家の外へ出て行っちまったんだよ。」

ラヴィはAさんから自由になりたくて歩みだしたのかもしれない。

 

※ 猫大好き。