まる猫の今夜も眠れない

漫画、英語学習、お笑い、ふりかけ、四方山話

ハードボイルド、PM8:31

スノーホワイト

愛は見返りを必要としない。

愛は与えるだけで幸せになれるということだ。

男は6時間前は雪原にいた。

雪が光を跳ね返し、寒さの中で息を吐いても空気は白く染まらない。

純白とはきっとこのことだ。

仕事でなければこの景色もきっと楽しめただろう。

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男は数日間家を開けていた。

この雪山で家族と離れて暮らしていた。

そしてそんな生活からやっと開放されたのだ。

いつもの仕事場に帰れたのは午後遅くのことだった。

自動販売機でコーヒーを買って同僚と少しの間語らう。

他愛もない話をすることで男は非日常からいつもの日々へと心を戻そうとしていたのだ。

そして重い荷物を持ち上げて、仕事場をあとにする。

外はすっかり夜であった。

街の灯りを頼りに歩みを進める。

雪山よりもだいぶ温かいはずなのに吐いた息は白かった。

家まで歩いて1時間。

荷物はとても重かった。

いや、重いだけならば1時間位はなんともないのだが、かさばることが男を苦しめていた。

荷物に足があたって歩みが妨げられる。

そして蓄積された疲労も男にのしかかっていた。

今日は地下鉄で帰るか。

男は地下鉄が苦手だった。

何となく息苦しくなるのだった。

けれどもそんなことは言っていられない。

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男は仕事場にほど近い地下鉄の駅に踵を向けた。
そして改札で切符を買って、階段を降った。

男は列車に乗るときは、なるべく人のいない場所で待ちたい性分だった。

階段と階段の間のベンチに荷物を置くと、部活を終えた女子高生が語らいながら男の隣に座った。

急に立ち去ると自分が彼女たちの存在を嫌がっていると思わせるのではないか。

気のいい男はそんな風に感じたので、しばらくそのベンチの前に佇んでいたが、列車が到着する時間が近づいて再び歩き始めた。

そして階段横に止まった車両の扉から列車に乗り込んだ。

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列車は空席が多かった。

電車に乗るときは男は端の席をいつも好んで座った。

疲労で重い体を席に沈め、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

持ってきた本をカバンから出して文字を眺めていた。

内容は頭には入ってこない。

30分ほど電車に揺られて、男は家の最寄り駅に着いた。

コンビニに寄って買わなくてもいいものを買い、家路につく。

家々の窓から漏れる光に照らされて男は歩いていた。

あの光の1つ1つに家庭があるのだな。

そして自分にも。

男は重い体を引きずってやっと家に到着した。

玄関のベルを鳴らすと幼い愛娘が玄関に走ってきた。

男にとってこの上なく愛しい存在だ。

そしてその愛しい存在はこういった。

「パパ、お口臭いよ。」

 

愛は見返りを必要としない。

愛は与えるだけで幸せになれるということだ。

 

※ お口の匂いも気にしよう。

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