クリーニング屋さんのチロル
スーツを着るのは年に5回あるかないかだ。
僕は仕事中はほとんどカジュアルな服装をしている。
カジュアルと言えば聞こえは良いが、要はジャージだ。
またそれが僕にとても似合う。
ジャージを愛し、ジャージに愛されし男と言っても過言だ。
そんな僕であるが、スーツのクリーニングは毎年数回行っている。
僕が行く近所のクリーニング店は家族経営をされていて、とても感じが良い。
仮にそのお店を「バブル・ボーイ」と呼ぼう。
なぜだか解らないが、僕がバブル・ボーイに行き着くまでに出会ったクリーニング店はとても高圧的な接客態度をとられる場合が多く、正直苦手意識があった。
僕はどんな店でも年齢にかかわらずスタッフさんとは丁寧語で話すのだが、バブル・ボーイまでのクリーニング屋さんではほとんどが見下すような喋り方をされていた。
いじめだったのかもしれない。
ところがバブル・ボーイのスタッフさんは本当に丁寧に接客をしてくれ、僕にとっては救世主のようなお店であった。
ただ1点を除いてだ。
バブル・ボーイは1階がお店で、店員さんは2階で生活をしている。
だから自動ドアを通って中に入ると、上階から店員さんが降りてきて接客をしてくれるのだ。
なんだか申し訳ない気持ちになるが、そこはまぁおいておく。
バブル・ボーイには猫がいる。
仮にチロルと呼ぼう。
チロルはふてぶてしい顔をしているが、そこがまた可愛い。
絶妙に低く野太い声でなくところも可愛い。
デブなのがまた可愛い。
猫は太っているほうが個人的には好きだ。
ただ問題なのはチロルには脱走癖があるということだ。
バブル・ボーイは前述したように入口が自動ドアである。
したがってクリーニングをして欲しい洋服を持っていくとドアが自動で開くわけだ。
するとコンビニに入店時に鳴るような音が鳴り響くわけだが、その音を聞きつけてか上階からけたたましい足音が2つ聞こえてくるのだ。
そしてチロルが物凄い勢いで階段を降りて来て、さらにそのあとをスタッフさんが追いかけてくるのだ。
チロルは店から脱出するために、スタッフさんはチロルを逃がすまいとして走ってくる。
チロルが入口に到着する前に自動ドアが閉まることが有り、その際のチロルは電車に駆け寄ったが扉が閉まって乗れなくなったサラリーマンのような哀愁を漂わせているのだ。
ただし2回に1回はチロルは脱出に成功する。
そして自動ドアを抜けて、自由を謳歌しながら街を爆走していく。
そんなチロルを見て、あんなに丁寧で優しそうなスタッフさんが「チッ」と舌打ちすることに今も慣れられずにいる。
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