味のビッグバン
家にいるのが好きな僕だが、何だかんだで旅行に行っている。
ずっと独りで外食ができず、わざわざテイクアウトしてまで家で食べていた僕だが、旅行先では食事に妙にアグレッシヴになる。
僕の場合、旅行といっても半分仕事みたいなときがあって、自由度が低い。
だから自分の自由になる食事のときに、その分はっちゃけてしまうのかもしれない。
個人的には寒い場所ほど食べ物が美味しいのではないかと思っている。
小樽商科大学を見に、小樽へ行ったときのことだ。
小樽商科大学はキャンパスも綺麗で、地元民からとても愛されている大学だと感じた。
カリキュラムも素晴らしく、とてもいい大学だと思った。
そのあとで小樽市内を歩いた。
情緒ある街並みに心が踊った。
運河と倉庫、お土産屋さんもあったりと、どれだけ歩いても飽きることがなく、たちまちお気に入りの場所になった。
何と言うか、街の色合いが渋いのだ。
心に染み入ってくる。
ちょうど昼時になり、地元の人に教えてもらった海鮮丼のお店に入った。
奥様が海鮮丼をこよなく愛しているからだ。
小上がりの席に通されて、感じの良い店員さんから注文を尋ねられる。
僕はメニューのイクラ丼のページを見つめていた。
たしか2500円くらいしたと思う。
昼食には高いかなと思ったが、まあごくたまにだし、お小遣いから出すわけでもないので、思い切って注文した。
数分後、イクラ丼が僕の前に配膳される。
イクラが宝石のように光り輝いている。
手を合わせ、食事に感謝をし、口にイクラ丼を運ぶ。
宇宙?
美味さしか感じない。
口内に味のビッグバンが起こる。
今まで食べていたイクラ丼とは何であったのか。
月並みな表現で申し訳ないが、無限に食べられると思った。
2500円が安く感じた。
僕のイクラ丼を一口だけ食べた奥様が、海鮮丼を食べ終わったあとで険しい顔をしていた。
奥様は少食だ。
食べすぎて体調でも悪くなったのかと思ったが、長い沈黙のあとで店員さんに向かってこう言ったのだ。
追加でイクラ丼ください。
あとから聞けば、海鮮丼も信じられないほど美味しかったらしいが、イクラ丼はそれを上回ったらしい。
補足であるが、その店は地元の人はあまり行かない店であった。
定期的に食べるには高すぎるらしい。
でも旅行のときくらいは贅沢をしてもいいじゃないか、海鮮だもの。
余談
完全に余談になるが、僕にとってこの小樽のイクラ丼の対極をなすのが、サンフランシスコのホテルで食べたパンである。
サンフランシスコはロマンチックな街で、僕のような人間であっても映える感じがした。
そんな素敵な街、サンフランシスコのホテルに泊まり、朝食で出されたパンのことを僕は忘れない。
ドライフルーツが入っていたパンだった。
見た目は美味しそうだった。
しかし口に入れた瞬間に、脳が危険を察知し、アラートを鳴らした。
パンで?
こんな不味いことある?
僕はパンを逆噴射したが、食べてしまった少量のパンで体調を崩し、その日は一日寝ていた。
完全に油断した。
パンならばパンらしくしてほしい。
サンフランシスコの名誉のために言うと、シスコは美食都市として有名である。
ふつうはどの食事も美味しい。
しかしあのホテルのパンだけは随分時が経っても、忘れることはできない。
このように、僕の食事のチャートは小樽のイクラ丼とシスコのパンを両端に持っているわけである。