座右の銘
それでは私の座右の銘の発表です。
ドゥルルルルルルルルルル、ダン!
私の座右の銘は...............自分の生き方の参考となることばです。
いや、だからどんな!
そんなことを思いながらヴォクは生きている。
先日、月に一度の贅沢で少しオシャレなイタリア料理店でランチをした。
食事をしている最中に伝票を見ると家族4人で6500円とあり、「ランチで6500円?」とかなり凹んだが、皆が喜んでいたので取り敢えず良しとした。
個人的には松屋さんなどで1000円前後で腹いっぱい食べるのが好きなのだが、その点はデザートがないと納得をしないタイプの奥様とは相容れない部分だった。
そもそもヴォクはこの6500円のうち2000円近くがデザート代であることに言葉にならない気持ちになるくらいなのだ。
それでもコーヒーを片手に満足そうにチョコレート・ケーキを食べる奥様を見て、「家庭が平和ならいいか」と無理やり自分に言い聞かせた。
そして僕は奥様たちがデザート・タイムの間に中座し、用を足しに行った。
さすがオシャレなイタリア料理店だ。
3つあるトイレは全て個室だった。
そのうちの1つが男性用トイレであった。
鍵がかかっていないことを確認し、ヴォクは静かに男性トイレを開けた。
中には5畳くらいのスペースがあり、入るとすぐに鏡と洗面台があった。
そしてその隣には男性用の小用便器があった。
なるほど、多くの男性は小用便器でさっと用を足し、ものの1分もしないうちに出ていくから、男性トイレが1つしかなくても混雑はしないんだな。
そんなふうにヴォクは思った。
そして自分も颯爽と小用便器の前にたち、軽やかに用を足そうとしたその刹那であった。
小用便器の隣には大用便器があるのだが、そこにおじさんが眼光鋭く座っていた。
いや、もしかしたらおじさんじゃなくて鷹かもしれない。
そう思い目を凝らしてみるがやはりどう見てもおじさんだ。
そしておじさんは猛禽類の目をしていた。
いや、待てよ。
鍵が開いていたじゃないか。
被害者はこちらだろう?
なぜおじさんは鍵をしていなかったんだ。
そしてなぜ一言も言わずにこちらに鋭い眼光を飛ばしてくるのか。
「瞳そらさないで」とでも言っているのだろうか。
いや、瞳そらしてくれ。
ヴォクは尿意を忘れ、「すいませ〜ん」と言ってその場を立ち去った。
あのままあの場所にいたらヴォクはおじさん猛禽類の餌食になっていたかもしれない。
三十六計逃げるに如かず。
ヴォクの座右の銘はそのときその言葉に決まった。
※ 三十六計逃げるに如かず。