表現百景
数ヶ月に1度の割合で創作意欲が暴発するまる猫であるが、自作の小説に飽き足らず舞台演出に強い興味を持ち始めた。
小学校のときに来てくれた劇団の方々のお芝居しかみたことがないにも関わらず、「リアリティー、リアリティー」とうわ言のように呟くまる猫に対して、ブログ・スタッフ一同も呆れるのを通り越して恐怖すら感じていた。
そういう意味では鬼才という名が相応しいとも言える。
そして満を持して記念すべきでないまる猫主演・演出の初舞台の企画が立ち上げられた。
タイトルは「進化論」。
果たして鬼才まる猫はどのような舞台を演出しようとしたのか。
素人舞台演出専門雑誌である表現百景は彼の一挙手一投足を追った。

「進化論」のあらすじ
舞台は太古の地球。
隕石が落ちる前の恐竜たちのあるがままの生活を描いたものである。
恐竜たちは弱肉強食の過酷な日々を過ごしており、そこには脚色など一切ない生命の物語が紡がれている。
取ってつけたような盛り上がりやこじつけの友情などのお涙頂戴もない、ひたすらに命を紡ぐだけの物語がかえって生命の讃歌となっていると言える。

壮大なエキストラ
「進化論」では今までの舞台演出の概念を覆すような多くのエキストラを使用することが予定されていた。
その数およそ2000人。
どこでどうやって集めたのか不明であるが、ギャラがいっさい出ないので全員友情出演となるのかは意見が分かれるところである。
しかしながら舞台狭しと2000人の演者たちが思い思いに恐竜たちを演じる姿は大迫力という言葉では形容できないほどの狂気を醸し出すだろうと予想されていた。
「こんなに多くのエキストラを演出の素人が動かすことができるのか?」という懐疑的な声がエキストラからもあがった。
「この舞台は間違いなく失敗する」という舞台関係者からの心無い声も多数聞こえた。
しかし鬼才まる猫はやってのけた。
エキストラ1人1人に200ページもの台本を用意することで演者を黙らせたのだ。

リアリティーの追求
鬼才演出家を気取るまる猫はリアリティーをとことん追求していた。
一切のCGを用いず、被り物の類を全く使用しなかった。
使用したのは緑色のタイツだけであった。
つまりまる猫をはじめとする2000人を超える演者たちは緑色のタイツをまとい、恐竜たちの生活を演じたのだった。
「そもそも恐竜の色は現在のところ正確に判明しておらず、人間が勝手に決めたものではないのか」という意見もあったが、舞台中央で一際大きな雄叫びを上げているまる猫を前に誰も何も言うことはできなかった。
全身緑のタイツ姿で「チャオオ〜」と叫ぶまる猫と2000人のエキストラたちは確かにそのとき恐竜時代を生きていたと言える。

突然の終幕
演出家まる猫を中心に一丸となっていた「進化論」演者スタッフ一同であったが、舞台の中止は突然決定された。
練習を見学に来たスタッフが舞台上で叫ぶ緑色のタイツ姿の演者たちを見て、「あれは何のリハビリですか?」と衝撃的な一言を発したからであった。
その言葉を聞いた2000人のエキストラははたと我に返り、顔を赤らめて現場をあとにしたことは言うまでもない。
舞台には自称鬼才演出家のまる猫だけが残り、静かに緑色のタイツをたたんでいた姿に我々は涙を隠せなかった。
この記事は当然のことながらフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません。
※ 舞台。
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