手紙 〜拝啓 中年の君へ〜 [ブロッケンマン]
あの日の少年たちの誰もが夢中になったキン肉マン。
僕の地方では金曜日にそのアニメが放映されていたので、幼心に「金曜日のキン肉マン」だと思っていたのを思い出す。
毎週金曜日が楽しみで仕方がなかった。
魅力的なキャラクターばかりが登場し、30分があっという間に過ぎた。
その中でも僕が好きだったのはブロッケンJr.である。
令和の今ならば放送が際どい出で立ちをしているところが子供ながらにかっこいいと思ったわけだ。
そのブロッケンJr.のお父さんがブロッケンマンというのだが、拝啓、中年のあなたに伝えたいことがあるのです。

ブロッケンマンがラーメンマンに必殺キャメルクラッチをくらい、ラーメンにされたという話は誰もが知るところであるが、そもそも「ブロッケンとは一体何なのだろうか」と子供の頃の僕は疑問に思っていたわけだ。
「ラーメンにされた」と文章で書くと「料理漫画だろうか」と勘違いされるかもしれない。
実際に僕の地域では「ラーメンになるといけないから」という理由でキャメルクラッチは禁止されていた。
しかしながら、キン肉マンは歴とした友情格闘漫画である。
ブロッケンに対しての答えを持たないまま、僕は大人の階段を登っていった。
それから中学に入り、僕は学校で英語を学び始めた。
そしてbrokenという単語を学んだ。
言わずもがな、「壊れた」という意味である。
僕はピンときた。
そうか、brokenのドイツ語読みがブロッケンであり、ブロッケンマンは「broken man」なのだと。
なぜかって彼はラーメンマンに壊されたのだから。
僕はそのことを周りの人たちに伝えると、男子からは「凄い発見だ」と喝采をもって迎えられた。
世紀の大発見をしたかのような興奮が渦巻いた。
胴上げを試みようとする男子すらいた。
女子生徒からは有り難いことに「こんな奴らと一緒の空間にいたくない」という視線を頂戴した。

そして長い長い日が過ぎた。
元号は平成となっていた。
ある日、僕は何気なくテレビを見ていた。
超常現象に関する番組でブロッケン現象について特集していた。
ブロッケン現象とは人が立っている後ろから太陽光などが差し、人の前にある霧や雲の粒によって光が拡散すると、人の周りに光輪が現れるという光学現象である。
英語ではBrocken Phonomenonという。
ドイツのブロッケン山でよく見られたことに由来している。
僕は「神秘的だな〜」と感動した。

そして令和になり、僕は気付くのであった。
「あれ、broken manじゃなくBrocken Manだったのか?」
震えを抑えられないまま、僕はネットで調べた。
ブロッケンJr.はドイツの名門軍人一族であるブロッケン家の出身らしい。
あの教室の興奮がフラッシュバックする。
「凄いぞ!凄いぞ!」という歓声が鳴り止まなかったあの空間。
「ナンバーワン!ナンバーワン!」という雄叫びがどこからともなく響いたあの空間。
僕にはもう友達がいない。
例に漏れず当時あの場所にいた誰とも連絡を取っていない。
それだけが唯一の救いであった。
そんな甘酸っぱい想いを胸に抱きながら僕は今日も生きている。
なお英語brokenはドイツ語に置き換えるとgebrochen (ないしはkaputt)らしいですよ、中学時代の僕。