後発白内障と僕3
そのとき僕は待合室2にいた。
後発白内障の検査をするためだ。
後発白内障とは白内障を患った人が視界を正常にするためにレンズを入れたあとで再び視界が白く曇る症状のことであり、正確には白内障ではないらしい。
そしてその病院は治療、設備、サービスなど全てにおいて素晴らしく、地元民からの人気がありすぎるために待ち時間が虚空を感じるほどに長い病院であった。
昔の人なら元服しているのではないかと思うほどに長い。
待合室1をクリアーして現在の地点にいるわけだが、2度の検査を受けて2時間が過ぎている。

ワイヤレス・イヤホンを持ってきたはいいものの、それを装着すると「まる猫さ〜ん」という声が聞こえないことに気付き、ラジオを楽しむことができない。
自分が読唇術をマスターしてこなかったことを痛烈に後悔する瞬間であった。
そんな僕がイヤホンなどしたら「ジャイアント・ロボさ〜ん」と呼ばれても「は〜い」と言ってしまうかもしれない。
恐ろしい。
僕はジャイアント・ロボではないからである。
したがって文庫本という武器だけで戦うしかないわけだが、寝落ちに寝落ちを重ねたので事件の真相を5回ほど読むことになった。
「この登場人物は何回同じ目にあっとるんや」と言いたくなったが、5回めには逆に笑えてくるから不思議だ。

正直タイムリープしているのではないかと思うほど時間が過ぎない。
エグい。
待つことは知っていたが、山頂が見えない。
成長の速い動物を連れてこなくてよかったと心底思うほどである。
周りを見渡すと多くの人が口を大きく開けて瞳を閉じている。
まるで深夜バスだ。
中には目を見開きながら口を開けている人もいる。
怖い。
ホラーすぎる。
そしてようやく僕の名前が呼ばれる。

診察室ではとても優しい眼科医さんがおられた。
眼科医さんは僕の瞳を検査し、「これは診断の通り後発白内障ですね」と述べられた。
たまたま僕がゆく場所ゆく場所でスモークが焚かれているという可能性も考えるには考えたが、やはり無理であったか。
それから眼科医さんは「YAGレーザー治療が必要ですね」とおっしゃられる。
そうなりますよね。
僕は恐怖で表情をなくしながら先生の話を聞いていた。
次に来たときにまた3時間近く待ってレーザーで撃たれるのかと思うと雪のようだ、悲しみは。

そんなとき、先生は信じられないほど自愛に満ちた言葉をかけてくださった。
「もう少し待っていただいたら本日治療できますよ。」
え、何ですって?
僕のレーザーへの恐怖は砂塵の彼方へと消えていった。
何とありがたいことばであろう。
もう1度来てまた悠久の刻を過ごすことは僕にはできない。
「先生、そのレーザーが頭部を貫通することはないですよね?」という質問を忘れるほど感謝をし、僕は「ぜひお願いします」と即答した。
※ 瞳はとても大切です。