まる猫の今夜も眠れない

眠れない夜のお供に

【夏空に流れ星2】 秋風に口づけを (後編)

※ この内容は以下の記事の続きとなっております。

 

Something Blueの愛なら

大学1年の秋休みも終わろうとしていた。

地元に帰ったその日にミミコに会ったっきり、彼女と会うことはなかった。

電話も互いにタイミングを逸して、ゆっくり話すことはできなかった。

当時の地元の友達と朝まで馬鹿をやり、昼前に眠るという自堕落な生活を繰り返した。

今はもう会うことはない彼らと何も考えず笑いあった。

けれども僕の心の中にはミミコが住んでいた。

誰といても何をしていても、心の片隅でミミコのことを考えた。

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秋休みが終わろうとしていたある日に僕は下宿先に帰る予定だった。

家族に感謝をして、新幹線が通る駅へと歩みを進めた。

そしてその日、僕はミミコと会う約束をしていた。

 

秋、公園でキミと

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ミミコは駅ビルの空中庭園で景色を眺めていた。

僕はそっとミミコの隣に立って、同じ景色を眺めた。

「公園行こ。」

ミミコはそういうと、僕の前を歩いて行った。

映画館でつながれた僕たちの手はつながれないままだった。

コンビニでお茶を買って、しばらく歩くと、少し大きめの公園に着いた。

一言も言葉がかわされぬまま、僕たちはベンチに座った。

そして彩りを失った木々をぼんやりと眺めていた。

「なんでだよ。」

ミミコは言った。

「なんで電話してくれないんだよ。

なんで帰っちゃうのに平気なんだよ。

あたし...あたし...嫌なのに。」

ミミコは両腕の中に顔を隠して、吐息を吐くように言葉を紡いだ。

「平気なわけないだろ。」

僕はミミコを諭すように、なだめるように言った。

「連れていけるなら連れて行きたいよ。」

「...じゃあ連れて行ってよ。」

ベンチのそばを木枯らしが吹いた。

枯れ葉が小さな音を立てて地面近くを舞った。

「ごめん。」

ミミコはそう言って、僕にもたれかかった。

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「いつかミミコを連れ去るから。」

僕の肩でミミコは小さく頷いた。

ミミコのか弱い心音が感じられた。

ミミコがもう涙にならないように僕が彼女を守っていこうと決めた。

僕はぎこちなくミミコの肩を右手でできる限りそっと抱きしめた。

セピア色の景色の中でミミコだけに色が付いているようだった。

体の輪郭が邪魔だった。

体温でチョコレートのように解け合えたらどれだけ良かっただろう。

僕の自由な左手はミミコの右手とじゃれあい、幸福な不自由を堪能する。

ミミコの黒髪が秋風になびく。

「...ちゃんと連れ去ってよ。」

彼女はきっとはにかみながら言ったと思う。

そして僕は彼女に誓うのだった。

「約束するよ。」

ミミコのなびく黒髪が僕の顔をくすぐる。

 

 

 

ヘブシ!!!!!

 

 

 

出た。

僕の鼻から全ての液体が噴出された。

ミミコはこの状況にひいていた。

将来を約束した男が急に鼻からアメリカン・クラッカーのような大粒の粘着性のある水を出したのだ。

そして僕も完全にひいていた。

さきほどまでの雰囲気を台無しにする自らの芸術的なまでの失敗に唖然とした。

 

そして秋は夏には戻らないかのよう、彼女の心も戻ってくることはなかった。