※ この内容は以下の記事の続きです。
maruneko-cannot-sleep.hatenablog.jp
CALLING
それからの夜はミミコのものだった。
毎日電話をすると料金が高くなってしまうため、電話しない日は互いに手紙を書くことにした。
手紙と行っても会ったときに渡すメモ書きのようなものだ。
そして週に2日ほどミミコと僕は電話でとりとめのないことを話し合った。
僕が日本にいない間のこと、卒業式にあまり話せなかったこと、3月に新しい住所と電話番号だけ伝えてさよならも言わなかったこと、大学に入ってからのこと。
ミミコは学校の先生になるために地元の教育大学へ進学していた。
「会わなかった日々」が「会えなかった日々」に変わっていく。
2人の間にあった別々の時間を答え合わせをするかのように埋めていく。
ある日ミミコは笑って言った。
「ブーメランのお返しをしてよ。」
「いいけれど、何がいい?」
「あたし、映画が観たいな。」
「いいよ、じゃあ次に僕が地元に帰ったら一緒に行こう。」
「えへへ、嬉しい。
キミと映画に行けるんだ。」
ミミコは小さな、本当に小さな声で言った。
僕もなぜだか息苦しくて声が出なかった。
そして僕たちは秋深くなった日にまた会うことになった。
TWO STRAY CATS IN THE MOVIE THEATER
僕は新幹線に揺られて、地元で1番大きな駅に着いた。
街路樹の葉はすっかり赤みを失っていた。
街にはコートを着た人がちらほらと見受けられた。
待ち合わせ場所に独り、ミミコがいた。
大きなマフラーで顔を半分隠しているが、瞳を見れば笑顔なのが解る。
ミミコは今も変わらず綺麗だった。
多くを語ることもなく、僕たちはカフェへと歩いた。
カフェではアールグレイを頼み、チーズケーキとガトーショコラを分け合った。
「美味しいね」という感想だけ出るが、電話のときみたいにしゃべることができない。
ただミミコも僕も前の晩全く眠れなかったことがわかった。
でも本当は嘘だ。
本当は僕は何日も前から眠れていない。
ずっとミミコに会いたかった。
そしてスイーツを食べ終わっても、ミミコも僕も少し緊張していた。
けれども、わけもなく僕たちは笑った。
笑顔になるのに文脈はいらなかった。
そして僕たちは映画館に向かった。
ミミコが見たがっていた映画だ。
ソーダをドリンクホルダーに入れ、パンフレットを2人で眺めた。
そして灯りが消えるとミミコは音を立てず拍手をした。
ミミコの好きな俳優が出ると、ミミコは子供のように喜んだ。
僕もそんなミミコを見て、素直に嬉しくなった。
ストーリーは緩やかに流れていく。
気づけばミミコの手が僕の手と触れ合っていた。
僕がミミコを見ると、ミミコは小さな寝息を立てて眠っていた。
僕も抗いようのない睡魔に襲われ、ミミコの手をつなぎ、瞳を閉じた。
僕たちは手をつなぎ、肩を寄せ合いながら、眠りに落ちた。
ラストシーンが終わるまで、野良猫が互いを温めあうかのように、誰にも邪魔できないように寄り添っていた。
続く