キャラクター人気投票と手塚漫画
今、手元に新沢基栄先生の「ハイスクール!奇面組」の16巻がある。
「ハイスクール!奇面組」と言えば、一世を風靡したギャグ漫画の名作であり、上品かつ上質な笑いが詰め込まれている。
初期の作品に関しては、哲学的とすら言える深みすらある。
アニメにもなり、音楽的にも高い評価を受けていた。
多分、僕が初めて買った漫画だったが、そのときには連載は終了していたと思う。
なぜ16巻なのかといえば、この巻にキャラクター人気投票結果が掲載されているからだ。
ちなみに僕の持っている文庫版には人気投票が掲載されておらず、わざわざブックオフでジャンプ・コミックスの16巻を買った。
「ハイスクール!奇面組」の主人公は一堂零という人なのだが、面白くて可愛らしく男女ともに人気がある。
しかし人気投票1位ではなかった。
ヒロインが倍近い得票数で1位になっている。
ヒロインの女の子も可愛いので、それ自体は異論はないのだが、ここで言いたいのは主人公が人気投票1位ではないケースのことである。
ストーリーが始まって間もない時期に行われた人気投票では主人公が1位であることが多いが、ここでは物語がかなり進んでから(もしくは完結後)の人気投票のことを指すと思って欲しい。
例えば吾峠呼世晴先生の「鬼滅の刃」、芥見下々先生の「呪術廻戦」、冨樫義博先生の「幽☆遊☆白書」、高橋陽一先生の「キャプテン翼」なども、(ストーリーが進んでから行われた)ジャンプ人気投票では主人公が1位でない。
鳥山明先生の「DRAGON BALL」では主人公の孫悟空が物語の中盤で1位ではなくなり、終盤に1位に返り咲く。
それぞれの漫画はいつか細かく触れさせていただきたいと思う。
このように主人公が人気投票1位ではない漫画が数多とある。
しかも上記の全てが超がつくほどの人気漫画である。
このキャラクター人気投票はジャンプ系の漫画で行われていることが多いので、参考にしているものに多少の偏りがあるかもしれない。
しかしながら、仮にチャンピオンで水島新司先生が描かれた野球漫画の金字塔「ドカベン」で人気投票が行われたとして(行われていたかもしれないが)、果たして主人公が1位になるだろうか。
当然ながら、主人公が人気1位の漫画にも名作はある。
井上雄彦先生の「SLAM DUNK」や尾田栄一郎先生の「ONE PIECE」などがそうだ。
もちろん「呪術廻戦」も「ONE PIECE」もまだ連載中であるので今後変動はあるかもしれない。
でももしかすると、主人公が人気1位じゃない漫画のほうが数は多いのかもしれないという気がしてきた。
しかしここであることに気付く。
手塚治虫先生の漫画ではどうなのか?
手塚先生の作品の中で人気投票が行われた話は聞いたことがないが、仮にあったとしてもかなりの確率で主人公が1位になるのではないだろうか。
例えば、「ブラック・ジャック」では間違いなくブラック・ジャックが1位になると思う。
「鉄腕アトム」もしかりである。
ちなみに言っておくと、僕は手塚先生は漫画の神様だとは思うけれど、熱狂的なファンではない。
僕の現在の漫画ベスト3には手塚作品は入っていない。
ただ、漫画の神様の作品はどうだろうと考えたわけだ。
月並みな意見ではあると思うけれど、やはり手塚先生の漫画は「映画」なんだろう。
映画では主人公以外がほかのキャラクターに人気で劣るケースは少ないと思う。
手塚先生はスター・システムを用いて、登場人物をある種記号化させることで、ストーリーの中で主人公だけにスポットを当てている。
手塚先生が用いたスター・システムとは、漫画の登場人物を役者のように扱うことで、ある漫画の主人公が別の漫画に脇役としてでたりすることを指す。
ヒゲおやじなどはまさにその適例と言える。
そのシステムを使うことで、主人公にだけ強い光を当て、その緻密な心情変化を描ききることができているのだろう。
だから僕達は手塚漫画の主人公に釘付けになり、愛情を感じざるをえないのだろう。
そんなことに気付いて、また手塚漫画を読みたくなった。