キリギリス・ネヴァー・ダイ
歯医者の待合室で子供を膝に乗せて絵本を読んでいた。
その絵本には色々な話があり、それらの中から僕は「アリとキリギリス」を選んだ。
特に教育的な狙いがあるわけではなく、それ以外の話を僕が知らなかっただけである。

読み始めてすぐに、僕は緑色の人面キリギリスに嫌悪感を持った。
そのグリーン・モンスターがチェックのチョッキや小粋な帽子などを着こなしている点も僕の中の検閲に引っかかったところだった。
それでも「悪役に見せるための工夫かもしれない」と思い、読み進めることにした。
まず序盤は例のごとくこの緑の化け物は放蕩三昧をする。
1日中楽器を弾いて歌って過ごされるのだ。
せめてメジャー・デビューを目指して欲しい。
夢を追っているキャラクターは誰しもが応援できるからだ。
ところがこのグリーン・デビルはよくわからないがフランス料理のコースみたいな食事を摂っていた。

緑の人面虫が放蕩の限りを尽くしている間、アリがせっせと働いている様子が描かれる。
「いよいよ善玉の登場か」と思った僕であったが、すぐさま声のトーンが落ちることになった。
黒すぎる。
アリが黒すぎるのだ。
推理漫画に出てくる捕まる前の犯人よりも黒い。
その暗黒星雲の中に虚ろな目玉がギョロリと光っている。
そしてこのアリと思しき生き物は頭部だけがやたらと大きく、ほかはモデル体型であったことも僕の中の評価を著しく下げる結果につながった。
コイツも好きじゃない。
僕は直感的にそう悟った。
そして登場する虫がすべて二足歩行であることも僕の血圧を上げる一因となった。

春が来れば夏が来るように、物語にも冬の季節がやって来た。
夏場に放蕩三昧をしたヤツは食べるものもなく今は虫の息だった。
そうして緑のヤツは黒いヤツの家にたどり着く。
緑のヤツは黒いヤツに「食べ物を分けて欲しい」と懇願するのだった。
その緑のヤツの様子を見て黒いヤツは「外は雪で寒かっただろう、中にお入り」と言うのだった。
黒いヤツは続けて「お腹も空いているだろう、食べ物もお食べ」というのだった。
僕は自分の知っている話と違い困惑したが、黒いヤツはさらに続けた。
「ちなみに君が食べているのは僕が労働して得た食べ物だけどね。」
それから黒いヤツの説教が始まるのだった。
つまり現代の「アリとキリギリス」は説教で終わるというエンディングなのであった。
「これも時代か」と納得しようとするものの、あまりのストーリーの消化不良に僕は虫唾が走ったのだった。
※ アリとキリギリス。