髪・YOU・美男
奥様の命令で僕は長い間髪を切ることを禁じられていた。
伸ばし放題になった僕の髪を見た同僚たちから僕は陰で「爆発物処理班」と呼ばれていた。
まったく何が「爆発物処理班」だ。
だったら僕は爆発物処理の仕事に失敗したことになるじゃないか。
いや、そんな爆風を浴びたような髪型じゃないわ!
しかしそう言われると僕は居ても立っても居られなくなり、床屋さんに走った。
「奥様に怒られるかもしれない。」
そう思うと極寒の地にいるかのように僕の身体は震えた。
パロ・スペシャルなどのプロレス技(超人技)をかけられる恐れすらある。
ただ奥様は「地肌が見えるのが年相応でない」という偏見というよりも偏執的な思想の持ち主であるので、そこさえクリアすれば何とか許してもらえるだろうと思い、勇気を振り絞って床屋さんのドアを開けた。
待合スペースでしばらく待つと僕の番がやってきた。
店員さんはとても感じのいい女性で、いつも僕の髪を切ってくださっている方だった。
彼女は「今日はどういう風にされますか?」と聞いてこられた。
僕は「トップをほとんど残して、残りは短くしてください」とお願いした。
実際は説明はもう少し細かくさせてもらった。
恐れ多くも名優ゲイリー・オールドマンさんのような髪型にしたいと思ったのだ。
いや、もうかっこいいったらない。
「フィフス・エレメント」のゲイリー・オールドマンさんだと髪型がファンキーすぎるので、「レオン」くらいの感じが正直ありがたかった。
そして僕は瞳を静かに閉じて、プロの方に何もかもお任せした。
それから10分ほどして、僕はゆっくりと目を開ける。
頭頂部だけに髪が残っていて、ほかの部分はトゥルンとしていた。
まるでお寿司みたいな髪型が鏡に映っている。
ぬぅっ。
思わず僕は声を出す。
顔の側面は地肌しか見えない。
店員さんはいつもの感じでサイドを刈り上げてくださっていた。
「すいません、今回は地肌はNGで」と店員さんに伝えるべきだった。
完全に僕のミスだ。
僕は動揺を店員さんに悟られないように笑顔で店をあとにした。
そして恐る恐る家に帰ると、すぐに奥様に見つかってしまった。
僕は「怒られる」と恐怖ですくんでいたが、意外にも奥様は「今までの髪型よりはいいじゃない」と言ってくれた。
お寿司が好きだからだろうか?
事なきを得て席に座り、僕は冷静を取り戻した。
「何もそんなに気にすることなかったな、もっと早く散髪すればよかった。」
そんな風に思ったその刹那、自分が結構な過ちを犯してしまったことに気がついた。
時間は2月ほど前に遡るのだった。
※ エビも美味しいと思うようになりました。